銀猫の導き・二
□高嶺
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なぁ、松本?
どうしたらお前を俺のものにできる?
どうしたらお前の心が…
手に入る?
***
松本乱菊という女は、人の心に居場所を作るのが、上手いと思う。
俺は心に壁を作るのが得意だが、それでもお構いなしに、ズケズケと松本は入ってきた。
だからこそ、どんどん惹かれていったんだと思う。
松本と初めて会ったのは、俺が中3の秋。
家でも学校でも、進路にうるさい時期だった。
両親は金とか地位とか体裁とかが大好きな、ちと変わった感覚の持ち主で、物心ついた頃にはあまり家にいなかった。
使用人に俺を任せて、やれパーティだ、やれ旅行だと好き勝手やっていた。
そのくせ、学力とか俺の未来の事とかには口うるさく意見してくる。
その日もどこの高校に進学するかで小言の連続。
俺の話しなんざ、まるで聞きやしない。
ムシャクシャしていた俺は、フラリと家を出た。
向かった先は少し大きめの公園。
小さい頃からよく来ていた公園で、未だに心がモヤモヤしてくるとこうして足を運ぶ。
春になると桜がとても綺麗な公園なんだ。
日曜日だからだろう。
親子連れが多く、子どもたちのはしゃぐ声が響きわたっていた。
そんな光景を眺めながら、自分の家族の事を思い浮かべてみる。
うん、ない。
両親が俺を公園に連れてきた事はない。
それを別に悲しいとか寂しいとか、今更思わないが、心に引っかかる事なんてのは、多かったかもしれない。
人気のない所を探して、芝生に寝転ぶ。
(高校ねぇ…)
両親はとにかく、名門・空座学園を薦めてくる。
別に行きたくない訳じゃないが、素直に首を縦にふれないのは、どこかで反抗してるのかもな。
「ったく。俺は、ガキかよ。馬鹿みてぇ」
「何が馬鹿みたいなの?」
頭上から突然声をかけられ、びっくりして目を開けた。
目の前には女。それもとびきりの美女。
ニコニコ笑いながら、俺の顔をのぞき込んでいる。
金髪の長いフワフワの髪に青い目。だいぶデカイ胸を、強調するかのように着ている制服。
「ねぇ、何が馬鹿みたいなの?」
女はまた言った。
これが松本乱菊との出会いだった。
その後、初対面だと言うのに気さくに話を聞いてくれた松本は、空座学園の生徒だと言った。
「あんたも来なさいよ。楽しい所よ
よ」
松本にいわれたからじゃない。きっかけにはなったけど。
でも、この猫みたいに大きな目をした女に興味があったんだと思う。
こうして俺は、空座学園への進学を決めた。