銀猫の導き・二
□まほろば〜遥か遠い場所〜
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一 旅立つ鳥の行方
ギンの傍を離れる事は、何て違和感があるのだろう。
乱菊はただひたすらに走り続けた。
出来るだけ遠くに…ギンから離れなければ。
その思いのままに。
思えば、ギンと離れるのはこれが初めてだ。
道なき道を、全速力で駆け抜けながら乱菊はふと思った。
出会った頃からギンは割りと過保護で、乱菊が一人で何処かに行こうとするのを良しとしなかった。
乱菊の目立つ容姿の為だろうが、小屋のすぐそばにある小川ですら一人で行くのを渋る。
その理由をちゃんと理解したのは、二人で過ごしたあばら屋を襲撃された時だが…。
刺された肩や太腿の痛みは酷いものだったが、それでも乱菊は走り続けた。
自分さえいなければ、ギンは生きられる。
この時の乱菊は本気でそう思っていた。
走り続けた先に川が見えて、ようやく乱菊の足が止まる。
猛烈な喉の渇きに耐えられなかったのだ。
立ち止まる事がどれだけ危険かも分かっていた。
無我夢中で川の水を飲み続け、充分喉が潤った後、またフラリと歩きはじめた。
二・三歩足を進めたが、耐え難い苦痛は続く。
今にもギンの名前を呼びそうになる自分に絶望した。
離れなければと思っているのに、乱菊が求めるのはギンだけであった。
「馬鹿ね…。ギン以上の、大馬鹿だわ、あたし…」
込み上げてきた涙を強引に拭うと、また乱菊は走り出した。