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□みさ様へ
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「っていうのが市丸先輩の前世での最期で、その愛しの君があの松本さん、ですか」
後輩、吉良イヅルがチラリと視線を甲斐甲斐しく動き回る彼女に向けた。
「そっ。記憶を持ったまんま生まれ変わった僕はずっと乱菊探しとって、やっと見つけたんが三ヶ月前。それからこの店通っとるっちゅうわけや」
僕は店の一押しパスタをフォークで巻いて、口の中へと放り込んだ。
うん、やっぱりこの和風パスタ、美味しいわ。
僕もイヅル同様、明るい笑顔でオーダーをとってる乱菊を見る。
何も変わっとらん。
金髪の長い髪も、豊満な胸も、端整な容姿も。
みんなを惹きつけた、姉御気質な性格も。
落ち着いた雰囲気のカフェにたまたま入ったのが、三ヶ月前。
ここで僕は、小さい頃から探しとった乱菊を見つけた。
あの時の衝撃ったらないで。
だってなぁ、なっかなか見つからへんかってんもん。
幼稚園に通いながら、乱菊が傍におらへん自分に違和感感じて。
小学校では苦痛しかなかった。
乱菊がおらへん世界で生きていくのが苦痛で、これが謀反をおかし色んな人傷つけた僕への罰やとも思った。
せやけど中学、高校で知った顔を数人見かけて。
イヅルとも会えた。
みんな一様に前世の記憶は持っとらんかったけど、乱菊も絶対何処かにおるて、更に強く思った。
それから数年経ち、やっと見つけたんや。
僕は27歳になっとった。
「確かに、すごい美女ですね。背も高いし、モデルみたいだ」
「せやろー。でもあかんでぇ、イヅル。乱菊はやらん」
「分かってますよ!それに僕はどっちかというと…」
「雛森ちゃんみたいな、背ぇ低くて可愛らしいて、守ってあげたなるような女の子がええんやろ?雛森ちゃんみたいな」
ニンマリ笑ってそう言うたら、綺麗な顔を真っ赤に染めながら挙動不審になるイヅル。
「なっ、何で市丸先輩、僕が雛森さんの事好きって…」
「見とったら分かるわ。会社のみんな、ほとんど気づいてるんちゃう?まっ、当の本人は気づいてへんみたいやけど」
よっぽどみんなに知られてんのがショックやったんか、イヅルは意識をどっかに飛ばしたようや。
ほんまあいも変わらずおもろい子ぉやな。
中学、高校、大学。そして、今はおんなじ会社で働いとるイヅルは、前世のまんまや。
「お待たせしました。あら、ちょっと市丸さん。貴方の後輩面白いくらい、真っ白になってるわよ?」
途中で頼んだアイスコーヒーをテーブルに置きながら、乱菊がクスリと笑う。
「いつもこんなんやから、気にせんとって。それより乱菊」
「だから呼び捨て辞めてって言ってるでしょ?常連だからって、馴れ馴れしいんじゃない?」
「嫌やないくせに」
ほら、顔赤なった。こういう純粋なとこも、変わらずやな乱菊。
「貴方には、言うだけ無駄ね。それで、何よ?」
「今夜ご飯行こ、ご飯」
「ダメよ、今夜は。用事があるの。また今度誘ってちょうだい」
軽くウインクすると、また別の客んとこに歩いて行った。
「そう言うくせして、僕とご飯行ってくれたためしないやんか」
ほんまおもろい。
落としがいがあるっちゅうもんや。
まっ、気長にいきましょか。
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