彩歌
□Epirogue
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「今日も綺麗な月ねぇ…」
一人で晩酌しつつ、窓から月を見上げる。
煌々と輝く月の周りには星が散りばめられ、美しい夜空だ。
「一人で飲むのは、寂しいわね…」
「僕が一緒に飲んだあかん?」
懐かしい声が、部屋に広がった。
あれ?幻聴かしら。
あんまりにも会いたいって思ってたから、とうとう幻聴まで聞こえてきた?
「幻聴やないよ。乱菊…」
嘘…。
ゆっくり振り返ると、待ち焦がれていた想い人の姿が、そこにあった。
「……ギン?ギンなの?」
優しい笑顔を浮かべるその人に、躊躇いがちに問いかける。
「ああ、僕や。遅くなって、堪忍な?」
ああ、ギンだ。
あたしのギンだ。
その胸に勢い良く飛び込み、ギンの体温を感じる。
胸の鼓動も聞こえる。
やっぱり…生きてた。
ギンもあたしを強く強く抱きしめ、『ただいま』と呟いた。
「どう…して、助かったの?」
「あの時、乱菊また血ぃ吐いて気ぃ失ったやろ?黒崎君も藍染と飛んで行って…そしたらイヅルが来たんや。乱菊を追ってきた言うてな」
「吉良が?」
あたしは顔を上げて、ギンの顔を見た。
「すぐ治しますって。僕の傷治してくれたんや。まぁ、もがれた腕は戻らんかったけどな」
確かに、ギンの右腕は無くなったままだ。
「どうして、姿を消したの?」
「…僕はどう言う理由であれ、ソウルソサエティを裏切った罪人には変わりないんよ。せやから、もう乱菊の所にも、帰れへんて…思った。イヅル口止めして、姿消したんよ」
「バカよ、ギン…」
涙が溢れてきて、それをギンが優しく拭う。
そして、また、強く抱きしめられた。
「二度と戻ってこんつもりやった。でもな。乱菊の泣き顔が頭から離れへんくてな…。僕がおったら乱菊にまで迷惑かけるんちゃうかなって…思たけど、どうしても会いたくて…。乱菊に会いたくて。約束も、破るわけにはいかんしな」
あたしもギンの背中にまわした腕に、更に力を込める。
ああ、ギンだ。何もかも、あたしが大好きなギンだ。
「お帰りなさい、ギン。お願いだから、もう離さないで?ずっとあたしの傍にいて?」
「当然や。もう二度と離さへん」
いっぱいやりたい事がある。
いっぱい話たい事もある。
ギンと、もう一度人生をやり直すの。
あたしの為に孤独な戦いに身を投じたギン。
今あたしがこうやって笑っていられるのも、ギンのおかげ。
じゃなきゃあたしは霊体を保てなくて、消えていただろう。
今度はあたしが守る番。
あたしがギンを、幸せにする番。
「愛しとるよ、乱菊」
「あたしも、愛してる」
重ねた唇は、どこまでも柔らかく幸せを伴って、あたし達を包み込んだ。
これから色んな困難が待ち構えているだろう。
でも大丈夫。ギンとなら乗り越えていける。
あたし達の物語は、まだ始まったばかりーーー
END