マギ1
□バレンタインのお返しに、
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『この店知らなかったです』
「でしょう?シンとよく来てたんです」
ジャーファル様が連れてきてくれたのは賑やかな市街地から少し外れたところだった。
看板のようなものはあまり出ておらず、その代わりかスライド式の扉の上部にあまり見慣れない布がはためいていた。
その藍の布に異国の文字であろうものが太い筆で勢いよく二文字書いてある。うん、シンプル。
内装も質素で人はまばらだったけども、それがちょうどよく感じられた。カウンター席に座るジャーファル様の横に並んで座ると、30前後に見える異国の白い衣服を着た店主さん(と思われる人)がジャーファル様に「久しぶりだな!」と嬉しそうに声をかけた。
「何にする?」
「リョウのおすすめをお願いします。彼女は初めてなので食べやすいものを」
カウンター席に座ったものはいいもののここは何のお店なのかさっぱり分からなかった。
少し高くなっているカウンターの向こう側からリョウさんがジャーファル様と話しながら私の目の前に小皿と絞られたタオル、コップと細い棒二本を並べてくれたけど、さらに訳が分からない。今からマジックでもするのだろうか。ジャーファル様に聞こうかなと思ったけれど、楽しそうに話しているから声がかけられない、でも、分からないよー。
「ジャーさん、彼女困ってるぞ」
オロオロしている私に気づいたリョウさんが笑いながら助け舟を出してくれた。
「すみません、懐かしかったもので、つい」
『いえ、ジャーファル様のご友人ですか?』
「旅してたころに出会ったんですよ、それよりも…ナマエ」
『はい?』
「仕事中はともかく外で様は要りません」
『でも…』
「要りません、せめてさん付けで呼んでください」
『…ジャーファルさん?』
「はい、」
『せ、説明してもらえるとうれしいです』
ここ、何のお店ですか?
恥ずかしいやら、ジャーファル…さんの笑顔が眩しいやらで顔を真っ赤にして言うと、リョウさんがまたくっくっと引き笑いしていた。