マギ1
□3.「命令」だと言ったら?
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謝肉宴が国に馴染み始めた頃、新しい風習がこの地に出来つつあった。
女性の踊り子のような衣装、その頭につけるお面に、女性が配る花のネックレス。
もちろん、類にも漏れずナマエもそれに従っていて、彼女がスパルトスの方に行こうとしていたところをさらってきた。今彼女は俺の膝の上で酔っ払ってふらふらと体を揺らしている。今にも落ちそうなので左手で彼女の腰を支えているが、ジャーファルの視線が痛かった。
『シンー』
「どうした?」
『下りていいー?』
「ダメだ」
『ピスティのところ行きたいなー』
酔ってるせいかナマエの声は数倍甘く、赤がさした表情も色っぽくとんでもない小悪魔だった。とりあえず、さっきのあれはスパルトスに花をわたしに行こうとしていたわけではないことに安心した。
「後でな」
『お花も配って無いのー』
「俺がもらっておこう」
そう言って開いた右手を差し出すとナマエは俺の周りにあちこちで積み上げられているそれらを見渡した。
『…もういらないと思うよー?』
「ナマエからはもらってないぞ」
『むー』
ならあげる、そうしてていねいに俺の首に掛けてくれたんだが目の前にナマエの谷間がきていろいろ危なかった気がする。決して大きい訳では無いが形の良さそうなそれはいい匂いがした。
「……なあ、」
『ぬー?』
「他の奴に花渡すなよ」
正式には"そうやって胸元をさらすな"と言いたかったが、それを言った瞬間にジャーファルが飛んできそうだから止めた。しかし本当に後数年もしたらマスルール好みの胸に育っているかもしれない。
『えーーーー…』
「「命令」だと言ったら?」
不満そうな顔がかわいかったので少し意地の悪いことを言ってみると、ナマエは一瞬驚いて目を見開いたあと、へにゃりと顔を崩して笑った。
『シンが言うなら渡さないよー?』
拒絶されなかったことに安堵しつつ、その笑顔に見ほれていると、また彼女の谷間が近づいてきて今度は鼻先を掠めていった。
『もうお花に埋もれちゃえー』
バサバサと首元にいくつもの花がおちてきて、視界が少しさえぎられた。
「…いいのか」
『代わりに今日は私ずっとここに乗っとくからー』
ピスティー!こっち来てよ!
とピスティを呼びつける彼女は俺の膝で一晩過ごすつもりらしい。どうやら意外と膝の上が過ごしやすかったようだ。
そこにいい加減、見かねたジャーファルがこちらにやってきた。そしてナマエを俺から降ろそうとした。
「シン!いつまでナマエを乗せてるんですか!ナマエも降りなさい!!」
『んーー、降りるのやー』
お怒りの声に俺が返事するよりも先にナマエがすりよってきて左腕に抱きついた。いろいろ当たってるんだが、俺の肩にすりすりと額を擦り付ける彼女はどうやら眠いらしい。その様子が幼子のようでジャーファルも顔を朱くしていた。
ピスティがこっちに来た頃にはそのまま…俺の腕に抱きついたまま寝入ってしまっていた。
「シン…!」
「待てジャーファル、これは不可抗力だ」
「だまらっしゃい!!」
結局、俺はジャーファルにこっぴどく怒られて、ナマエには禁酒令がしかれることになった。