マギ1

□sleep after the carnival
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さて今日も、と体を起こして伸びをした。手早く着替え、髪を整えて、今日はどこに眠ってらっしゃるのかと気持ちのいい朝日が差し込む窓を覗いて、思わず笑いが込み上げた。



光が差し込み始めた王宮の庭のあちらこちらに兵士や文官が転がっている。よく見ると外廊などにも倒れ込んでいるものさえいて、なかなかの地獄図だ。
理由は昨日の謝肉宴。国を挙げてのパフォーマンスのような宴会で、国中のいたるところが飲めや歌えやの大騒ぎになり、明けた朝は度々この様な光景が見られる。

しかし、これもシンドバッド王や八人将があって初めて受けられる恩恵の賜であり、あまり咎めるものはいなかった。(ジャーファル様は頭を痛めてる)

私は謝肉宴には参加せず、お料理を少しだけ分けてもらって後は自室で仕事をしていたので、すっかり忘れていたのだ。



さて、私はいつもと同じくマスルール様だけを起こせばよいのだが、さすがにこんなに潰れているのは珍しい、加えてもうすぐ起床時間。そしてそんなにたたない内に始業時間である。
面倒だけれども目に付く人を片っ端から起こしていくことにした。



『マスルール様は…』



きっと流れで見つかるだろう!
そう意気込んで早速廊下に転がっている人に声を掛けていった。うぅ…、酒臭い。

























思っていた通りというか、やはり常日頃からそんなに声を掛けるわけでもない人を起こすのは勇気が要った。起きないし、お酒臭いし、まだ酔ってる人もいるし、…絡まれるし。途中からは起き出した人たちが手伝ってくれたから楽になったけど、とりあえず疲れた。
結局、流れでは見つからなかったマスルール様を探しに行こうと伸びをした。とそこにマスルール様がこちらに歩いて来るのが見えた。
不機嫌そうな顔をしていらして、肩に背負ってらっしゃるのは多分八人将のシャルルカン様だ。たしかお酒が好きだったから飲み潰れてしまったんだろうか、マスルール様は…、うん、強そうだ。



『おはようございます、マスルール様』



「…っす」



起きていらっしゃるのだから私の仕事は終わったな、とか考えていたら随分近くまで来たマスルール様が何か言いたげに私を見下ろしていた。私何かやらかした?



「昨日、いなかったスね」



『…?』



いや、私は国内にいましたよ。いつも通り王宮内で書類を片手に走り回っていましたが…?



「謝肉宴、嫌なんスか」



『…あぁ!』



そういうことか、とやっと聞かれていたことが理解できた。謝肉宴にいなかったことを聞かれていたのだ。
確かに私はあまり謝肉宴には参加しない、けっこうお酒も騒ぐのも好きだけれど、別事情で謝肉宴にまともに参加したことはない。しかし、それを説明するのもなんなので仕事が溜まっていた、と説明させていただいた。
一応、嘘じゃない。



『どうして、分かったんですか?』



私が謝肉宴にいなかったことが。言外にそう聞くと、彼は別段何でもなさそうに答えた。



「昨日、見かけなかったのと、ナマエから酒の匂いがしないんで」



そして何でもなさそうに名前を呼ばれたことに内心とても動揺した。



『そ、そうですか』



自分も普段通りに返そうとしたけど、少しどもってしまった。マスルール様はそれには気づかなかったようで、肩のシャルルカン様が呻いたのをきっかけに、それを届けにさっさと歩いていってしまった。
その背中を見送って、見えなくなって、自分の頬が熱くなってきて、その場にへたり込んだ。


私の名前、知ってたんだ…。っていうか、何でこんなに顔が熱いの。


 




火照った頬はなかなか冷めなくて、どうにか冷ます方法を必死に考えて、名前を呼ばれた時に動揺した理由を考えないようにした。
 

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