マギ1
□sleep before go to abroad
1ページ/1ページ
この頃、仕事が忙しい。
ジャーファル様が一時期国を開けるらしく、その間の仕事をなるべく減らすためにせっせっせっせっと王宮内を走り回る日々が続いていた。
しかし、その生活からも解放される。
今日はとうとう出発日だ。早朝の船に乗るというのに昨日も続いたジャーファル様の徹夜に付き合ったためか、少し体が重い。
なんとかふらふらする頭を冷水で冷やして、さあ今日も、とドアを開けると見慣れた官服の色が目に入ってきた。見慣れた官服だがサイズは見たこともない大きさだ、首を痛くなるぐらい上に向けて、人を認識する。
何故か佇んでいるマスルール様にとりあえずあいさつした。
『…おはようございます』
「……っす」
相変わらずの無表情で見下ろされるのも随分慣れたものだ。しかし、今日はどうしたのだろう。私の部屋にまで来るなんて…それに既に起きていらっしゃるし、いつもの甲冑じゃない!
『どうかなさいましたか?』
「…しばらくシンドリアを離れるんで」
一応、伝えに。
そう言って彼は少し居心地悪そうにしていた。まあ、来慣れない場所に着慣れない格好でいたらそうなるだろう。
シンドリアを離れるということはジャーファル様と共にシンドバッド王の護衛にあたっているということ。そういえば、マスルール様は八人将のひとりだった。と今更ながら思い出した。
私の部屋はジャーファル様から聞いたんだろうか。わざわざ言いに来てくれるあたりが、他の人(主にジャーファル様)から言われたからかもしれないけど嬉しかった。
『わざわざありがとうございます』
軽く一礼すると左頬にマスルール様の手が来て顔を持ち上げられた。
『っ…?』
突然のことに声も出せず抵抗も出来ずにいると、彼はじっと私の目をのぞき込んできた。寝ぼけていた頭も急激に活発になって頭に血が上って熱くなった。
「…ゆっくり寝た方がいいスよ」
『…え?』
「隈がジャーファルさんみたいで」
『〜っ!!』
そんなひどい顔を曝していたことと、無意識かなんだかマスルール様の太い指が私の頬を優しく一度撫でたりするからいけない。さらに恥ずかしくなって体がカチカチになってしまった。
マスルール様が訝しげにさらに顔を近づけてきたので、こんなことではいけない!と、さり気なく(自分は自然にしたつもり)手を外し、指を組んで今度は一歩後退して跪いた。顔は下向き加減で見えないようにしておく。
『お気をつけてください、旅の安全をお祈りいたします』
マスルール様が何か言いたげだったけれども、見ないようにして瞼を閉じた。
早く、早く、早く…、
私の顔がごまかせなくなるくらい赤くなる前にーーーー。
その願いは叶ったのか再び目を開けるとマスルール様が背を向けるところだった。
願ったはずなのにその背中が遠のくのが寂しくて、寂しくなるほどに体の奥底から湧き上がる更に熱い思いを認めてしまった。
私はマスルール様が好きなんだ。
やっぱりもう一度彼の顔を見ておきたかったなとか思いつつも、行動には移せず…。結局、憎らしいほどに晴れた青空の下、王宮の屋根から離れゆくバルバッド行きの船を見送った。
あとがき
やっと夢主が夢小説みたいに動くフラグが立ちました。
長かった、というか今までのがあまり夢小説ぽくなかったかもしれない。