マギ1

□月見酒
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「やっぱり、果実酒ならエリオハプトだよねー」



金色に輝くグラスに注いだ薄紫の液体は喉にキュッときた。意外と度が高かったみたいだ。

端から見れば満点の星空の下一人寂しく外廊の手すりに腰掛けて酒盛りをしている女だが、全然そんなこと気にかけていない。そもそも周りに人はいないのだから。 

もうそろそろ宴もたけなわだろうか。遠くに聞こえるかすかなざわめきをBGMに、溜め込んだ各国多種多様なお酒を飲む。

たまに友だちも巻き込むけれど私の飲む量について来れないらしく、たいてい肘鉄とともにお断りされてきた。




「次はー…、」




どれにしようか、同じく果実酒で通すのならレーム帝国のものも美味しそうだった。煌の方から来た濁り酒も不思議な匂いがしていたし、発泡酒もレアものを手に入れたところだった。

一度に持ち運べたのは5本だけだったのでそれを少しずつ飲むつもりだ、ちなみにグラスもそれぞれにあったものを一つずつと予備に大概のお酒にあう重宝しているものを一つ持ってきている。

何でそんなところにお金かけるのよ、もう少しくらい自分を磨きなさい。…だとか何とか言われたりしたけれど、これが私の自分磨きだしって言ったら哀れみの目で見られた。

結局、発泡酒、濁り酒と進み次のものを決めかねていると、夜風が冷たくなってきて一瞬ぶるりとした。




「へくしっ…」




ガチャガチャと酒瓶やら酒壺を触っていた手が止めた。一拍おいて一番大きな酒瓶に迷わず手を伸ばす。

体が冷えた時にはこれだ!

しかし、それが私の目の前からフェードアウトした。


しまった、とうとうジャーファル様に見つかったか!いや、そのわりになんだか随分大きな足が目の前に…。
もしや、



「珍しいもん持ってるな」



『え、』

   

何でこんなところにいるんですか!!



「これイムチャックでもなかなか手に入らない酒だろ」




見上げるとそこには多少酔って血色の良いヒナホホ様が立っておられた。私の酒瓶を持って不適に笑いながら。
その笑みさえ色っぽくて忘れかけていた熱が再燃する。ヤバいヤバい落ち着け自分!!
 



「隣いいか」




内心では、どうぞ!と叫んでいたけれど、実際はそんなこと出来るわけもなく何とか絞り出した声はとりあえずヒナホホ様に聞こえたようで安心した。




「酒に詳しい女官が居るってのはお前だったのか」




失礼ながらさっきまでと同じように手すりに腰掛けさせてもらった。それでも相変わらず大きくて視線をあわすには見下ろされる形になった。




『…そんなに詳しいとは思いませんが』




「この酒があるだけで相当な通だと思うけどな」




そう言ってチャプンと酒瓶を揺らしたヒナホホ様は明らかに飲みたがっていた。 



『…飲まれますか?』




「いいのか」



目が輝いてますよ。

悪いな、と手すりから飛び降りた背中に声をかけられ、仮にも好きかもしれない人にそんな意地悪するような人間じゃありません、とか言いかけたけど口をつぐんで酒瓶の端に置いた袋からグラスを取り出した。

私には大きすぎるイムチャックのものとオールマイティーなもの、前者をヒナホホ様に渡そうとしてその大きさに改めて圧倒された。

青い髪が月の光を受けて艶やかに光り滝のように流れていた。隆々とした筋肉もあちこちにちらほら見える、古傷も……。

またあらぬ方向へ思考が走りかけたので必死にそれを止めた。ここで妄想が暴走したらただの痛い女官だ。まあ、そんな私の心内なんてヒナホホ様は知らないわけで、手渡したときに触れた指先から全身に熱が回った。

私に大きすぎるグラスはヒナホホ様には少し小さいくらいで妙に感慨深かった。


そのまま、城下を見下ろしながら色々なことを話した。

お酒の話から、王様と旅していた頃の正しい冒険談(王様が書いているのは脚色が凄い)やヒナホホ様の子どもたちの話、娘さんの反抗期についての相談を持ちかけられたときにはさすがに驚いたけど。

いつの間にか、あれだけうるさかった謝肉宴もほとんど終わりに近づいていた。
私ももうそろそろ片付け始めなければ、とほとんど空になった酒瓶とグラスを持ってきた袋に入れた。


ああ、残念、近づけたと思ったのにまた明日から遠い人になる。



「そう言えば名前を聞いてなかったな」



『失礼しました、…ナマエといいます』



名前を聞かれたということは、少なくとも数多の女官のうちのただの1人という認識じゃないってことでいいのかな?




「なあ、ナマエ、飲むときぐらい様っていうのはよしてくれ」


 

ヒナホホ様から出された提案に私はためらった。
でも、ここで一歩を踏み出せれば何かが変わる?




『また、次が…?ヒナホホさん』



思い切って呼んだ名前は甘美な響きで私の鼓膜を震わせた。




「たまにはこうやって飲むのもいいだろう」




また上手い酒を飲ませてくれ、とやけに男臭い笑顔を向けられて、照れるのと嬉しいのとで、私は複雑な表情を浮かべた。

その頭を大きな手でポンポンと叩いて、ヒナホホ様は子どもたちを終わりかけの宴へ回収しにいった。









私はこの気持ちに酔ったまま眠りについて、夢の中で現実味が増した素晴らしい妄想を繰り広げようか。



































あとがき

一個は書いてみたかった!ヒナホホ夢です!
イムチャック国は寒い地域みたいなので、強いお酒があるのかなーとか思って書きました。夢主がイムチャックのお酒持ってたのはバザールで買い占めて、飲むときの締めに飲んでるからです。
夢主は少し変態が入ってるけど、基本的に一途なつもりです。
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