マギ1
□彼が猫になっちゃった!
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昨夜、久しぶりに徹夜から免れた私は彼女の…ナマエの部屋へ向かった。
ここのところ、ほとんど構ってあげられてなかったから拗ねているかもしれない。
その予想は見事に当たり、ナマエがちょうど泣いているところを訪ねてしまいなかなか慰めるのが大変だった。
細身の自分よりさらに細く軽い彼女を抱きしめて慰めた。徹夜から免れただけで相当疲れていたはずなのに、こういうナマエを慰めるのも、見るのも、全く苦じゃなかった。
『ジャーファルが猫だったらよかった』
「…なぜです?」
さすがに面食らった。彼女が無類の猫好きだと知っていても、いきなり猫になれと言われて動揺しないわけがない。
腕の中で彼女は必死に涙を止めようとしているみたいだった。
『猫ならずっと私の側に居てくれるでしょ』
とりあえず、ナマエは寂しかったらしい。私も逃げ出すシンを捕まえて、逃げられ、捕まえて、逃げられを繰り返している最中に彼女の姿を見かけると後ろ髪がひかれる思いだった。
「そうかもしれませんね、しかし」
″猫なら、こんなことできない″
夜中の二人きりの部屋で誰に聞かれる訳でもないのに、無声音で囁きつつ、こめかみや額にリップ音をたてながら唇を落とすと、彼女の涙は止まる。仕上げに瞼に深く口づけると彼女の顔は紅く染まった。
『っ!』
「どうしました」
『やっぱり…半分猫がいい』
悔しそうな顔をしていうナマエはすっかりいつも通りだった。
「ナマエが望んで叶うことなら喜んで」
冗談を舌先に絡ませて、今度こそ深く口付けると何とも決まらないことに、互いからあくびが溢れ出た。それならば、と対して恋人らしいこともせずただ抱き合いながら眠る一晩は幸せだった。
そして、今朝。今に至る。
朝は弱い彼女なのにその目は爛々と輝いていた。そんなナマエの表情もとてもかわいいが、何ともこの状況ではほとんど喜べない。
『ジャーファル』
「…なんです」
『それは触ってもいいの?』
「…もうどうとでもしなさい」
彼女が私の頭に生えた銀毛の片方をふにふにと揉むと、腰辺りから生えた同色のいわゆる尻尾が直線で硬直した。
なぜこうなったか、答は至って簡単。朝起きたらこうなっていた、だ。
猫になってもいいとは言ったがなりたいとはいってない。そもそもこんな魔法があったのか
ナマエのいたずらかとも思ったが、彼女は魔法の類はサッパリで魔法道具も使えるかどうか怪しいので、彼女のせいではないことがわかった。
不幸中の幸いか、今日は部下たちや他の八人将が、たまにはとくれた休日だった。彼女はバザールに行きたいといつだったか言っていた。もちろん、私がこんな有様ではそれは叶わない。
「バザール、行きたかったですか」
『ん…、それなりに。でも今日はいい』
ナマエが妙に生き生きしながら私の頭を撫で、耳の後ろをカリカリとかくと有り得ないことが起こった。喉が振動した。ゴロゴロと小さな部屋に鳴り響いたそれは明らかに猫のもの、羞恥も伴い耳まで血が上った。
それに目を丸くした彼女が次の瞬間へにゃりと顔を崩した。私の中の更に敏感になった第六感がナマエから離れろ、と警報音を上げる。ヤバい。
逃げようにも、ナマエに乱暴には出来ず、結局豪快に抱きすくめられた。捕まえられたときにかいまみえた鬼気迫った表情に、獣の勘が逆らうなと言った。
流されるのが身のためだと。
私の1日はこの部屋で終わりそうだ。
彼女がどこからか取り出した猫じゃらしを見て、なんとなくそう思った。
夜になってやっと耳と尻尾がポロリと取れたあとも、撫でられると喉がなったり、無意識に目を細めたりしてしまい散々ナマエとシンにからかわれた。
あとがき
若干お題から離れつつあることに気づいて焦っています
けどまあ何とかなったかなとまだ思ってます、はい