マギ1
□5.お前の未来は俺がもらう
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今日、私は20歳になった。
シンに拾われたのはもう遠い昔のこと。今では私もお酒を飲めるようになり、シンの禁酒期間が終わるとよく酒盛りをするようになった。最初はアルコールの匂いに酔うような勢いで、一時期禁酒令が出たときもあったけれど、今はそこそこ飲める(つもり)。
でも、今日飲んでいるのはシンが私の誕生日を祝ってくれたから。ついさっきまでマスルールとかジャーファルさんもいたけれど、何気にシンが追い出してしまった。
「ナマエも大きくなったな」
『そうだね』
こんなに小さかったんだ、と手で高さを示されたがそれは小さすぎるだろう、と笑い飛ばした。
「俺も年をとるわけだ」
もうおじさんだしな、とどこか遠いところを見て自嘲気味に呟くシン。このごろことあるごとに子どもにおじさん呼ばわりされているのが相当堪えているらしい。これは絡み酒になりそうなのでフォローに回ることにした。
『何言ってるの?ぎりぎり20代だから、私と同年代だよ!』
私が20歳でシンは29歳、無理やり同年代とも言えなくはない。
「…それもそうだな」
そうは言ったものの、ふっと手元のグラスを見ながら妖艶に笑うシンが自分と同年代とはほとんど思えなかった。
私はみんなに護られて成長したから、今でも甘えがつい入ってしまい幼いままで、大人な駆け引きなんかできる気さえしない。それこそ私と年の近いシャルやまだ10代のピスティの方がよっぽど大人っぽい。
…要するに私が子どもっぽいだけか。
シンに近づけたと思ったけどまだまだかぁ。
手元にある度数の低い甘い果実酒を見ると、更に自分が子どもみたいだ。シンたちが飲んでいたものは度数が高い蒸留酒だった。
いきなり静かになった私が気になったらしく、シンが顔をのぞき込んできた。その頬はあまり紅くない。
「何を考えてるんだ」
『んー…、シャルはいーなぁって』
「なに?」
何故かシャルの名前を出した途端、シンの表情が険しくなった。こんなことは数年前から度々あるけれど、ほんと何でだろう?
「ナマエはシャルルカンが好きなのか?」
『ち、違うって、シンに近くていいなって』
「…近い?」
慌てて否定したもののさらに訝しげな目線を向けられて、居心地が悪い。解決方法としてアルコールに冒された頭が出したのは、違う方向へ誤解を生みそうだった。
ふむ、と顎に手を当て考え始めたシンに追加で説明を加えようとすると、その前にシンが声を上げた。
「俺の一番近くはナマエだ」
妙に真剣な顔で言われたけれど突っ込ませてほしい。年がら年中働いている優秀な政務官を忘れておられませんか?
『…ジャーファルさん』
「ジャーファルは男だろう?」
何を言ってるんだ、とおかしなことを言われてわけが分からなくなった。
『は!?』
「シンドリアで同性同士の結婚はまだ認めていないからな」
あいつも良い嫁になりそうだがな、笑いながらグイッとグラスを煽れば中は空だったらしく残念そうにガラスのテーブルへそれをもどした。
話がさっぱり読めないので会話を諦めて、私もグラスをテーブルに戻しふかふかのソファに体をボスッと沈めた。
少し飲み過ぎたかも。
『シンがいってることよく分からないよー』
もうそろそろ部屋に戻ろうかと、寝ころんだままグッと腕を上に伸ばして骨を鳴らすときもちいい。
しかし、何故かその腕が戻ってこなかった。気がつけば自分の上に影がある。いつの間にかシンが私の上に覆い被さっていた。
この体勢はちょっと…。
飲み過ぎだよ!ってあしらおうとしたけれど、真剣な鋭い視線に射られて動けなくなった。髪と同じ深い藍のような紫のような熱を孕んだ瞳の中に私がいた。
『…シン?』
いきなり他の音が遠のいて、恐いような、体の中で熱が疼くような不思議な感覚で見上げるとシンの顔が近付いてきて目を瞑った。
「お前の未来は俺がもらう」
こう言えば分かるか、と鼻が触れ合う距離で話されて私の頭は漠然とした答えを出してしまった。
恐る恐る目を開けると、腕が解放されてそのまま押しつぶされるように抱きしめられた。私の体はただ硬直してそれを抵抗しなかったし受け入れもしなかった。
「ナマエが20歳になるのを待ってた」
耳に当たる吐息が火のように熱い。もしかして、ジャーファルさんたちはこのことを知っていて2人にしたんだろうか。
悔しいことに抱きしめられて、小さいころには感じなかった暖かい何かを感じた。
いつからシンは私をそういう風に見てたんだろう。
…私はいつからシンをそういう風に見てたんだろう。
気になったけど今はどうでも良かった。
若干自由な両腕を大きな背中にそおっと回して抱きしめ返す。
『…もらって?』
初めてのキスはきついお酒の味がして、私たちはそのまま夜闇に融けた。
『浮気したらシャルのところに行くからね』
「…うむ」
あとがき
不完全燃焼なので+αで多分少しいじります