マギ1
□とてもナイーブないきものです
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あれだけ厳重な見張りをおいてもなぜシンは抜け出せるのか、疑問に思うことがこのごろ多々ある。
そして、書類は溜まっているのに抜け出した王を探している政務官とは我ながらなんて情けないんだろう。
外廊を歩きながら一向に見つからない探し人にふぅっと溜め息をつく。
昼寝をしていたマスルールにも捜索を頼み、本当に一度締め上げようかなどと物騒な考えが頭をよぎり始めたころ、とてとてとかわいらしい足音がやってきた。
無意識についつい下がる目尻もそのままにそちらを見やると、特別(に小さい)サイズの官服を引きずりそうにしたナマエだった。
『ジャーしゃん!見て!』
私の腰ほどにも満たない身長のナマエが大きな紙を掲げて走ってきている。よく見るとそれにはきれいに名前が羅列されていた。
『みんなの名前書けるようになったの!』
「!上手に書けましたね」
たしか1ヶ月ほど前に一通り字を覚えた時にはまだこんなに整って書くことは出来ていなかった。ヤムライハやピスティが教えたのだろうか。照れくさそうにはにかむ小さな頭をよしよしと撫でてやると、満面の笑顔が浮かんだ。
『えへへへ』
「ところで、シンを知りませんか?」
一応のつもりで聞いてみると、ナマエの目が泳いだ。
『…知らないよ?』
「……ナマエ、この紙は誰からもらったんです」
『シンがね、一緒に勉強するぞー!ってもてきたの』
…素直なのはいいことだが、少し鍛えなければいけないかもしれない。
「ナマエの部屋ですか」
私がそう言うとナマエはハッとして泣きそうな顔をした。大方、シンに口止めされていたのだろう。
そこにマスルールが屋根づたいに飛んできた。肩には情けないかな我らが王の姿。担がれたまま屋根の上を移動されたせいか、ピクリともせずぐったりしている。
「ジャーファルさん、シンさん見つけました」
「執務室に放り込んでおいてください」
「はい」
マスルールが去るとナマエは半泣きで足元をじっと見ていた。その場にしゃがみこみ視線をあわせると、怒られるのかと思ったのか唇が震えていた。
そんな姿さえ愛らしくて、かわいくて、私は微笑んだ。
「怒ってませんからそんな顔しないでください」
『……』
「ナマエ、シンが来たら私に教えてください」
『でも…』
「そうしてくれたら、私も助かります」
『ナマエ…お手伝い出きるの?』
「ええ」
『じゃあ、次から教える!』
「はい、お願いします」
お手伝い、というのがうれしいのかナマエは紙を持ったままぴょんぴょんと跳ね回った。
素直過ぎるのは困るかもしれないけど、まだそれを直さなくてもいいだろう。