マギ1
□しげきぶつはあげてはいけません
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シャルルカンが子守をします!
『ご飯おいしーねー』
「そうだな」
毎日照りつける太陽もなりを潜めた少し早めの夕飯どき。
珍しいことに俺の膝にはナマエがいた。小さな口いっぱいに頬張る姿はまるでハムスターのようだった(一応止めさせた)。
食事はいつもジャーファルさんととっているナマエだが、徹夜続きのジャーファルさんには食事をとる時間さえないということで、俺に白羽の矢がだった。本当はヤムライハかピスティ辺りに頼みたかったそうだが、ヤムライハはまた魔法馬鹿の道を独走中で、ピスティは相棒の鳥の調子が悪いとかで、たまたまその辺を歩いていた俺が捕まった。
たまたまそこにいただけで…俺も暇な訳ではない。
正直ガキの世話はしたことがないので内心げっそりしながらジャーファルさんの気迫に押されたのだが、案外俺の膝の上にいるナマエを見るのは面白い。これならたまには一緒に食べるのもいいかもしれないと思わせるくらいには、俺の関心をひいた。
ナマエが俺の膝に乗ってきたときには食べにくいし降ろしたが、ナマエがテーブルに届かなかったので諦めて膝の上を許した。あのジャーファルさんも毎日こんなことをしているのかと考えると、少し笑えた。
『シャルのもいい匂いするー』
そういってナマエが手をのばしたのは俺が食べていた肉料理。ナマエにはスパイスがきつすぎるかとも思ったが、正直なところナマエが食べているものは明らかに味が薄そうで、あまりおいしそうには見えていなかった。
「…食べてみるか?」
『いいの!?』
「少しだけだぞ」
さすがに肉の塊を渡すわけにはいかないので、小さくちぎったパンにさらに小さく切った肉をはさんでやる。この動作の間でさえ、待ちきれないのかナマエはずっと膝の上で弾んでいたので、それは一応たしなめた。
俺意外とガキの面倒見れるんじゃねー?
「ほらよ」
『わー!ありがと!』
小さくしたつもりなのに手渡してみるとナマエには少し大きめだった。
本人は全く気にしていないようで、勢いよくそれに噛みついた。そして、おいしそうにもぐもぐと口を何回か動かすと急に動きを止めた。
「どうした?」
『…からい』
「え"」
嫌な予感がした。
『ん”〜〜〜〜〜〜っ!!』
「み、水!」
ぼろぼろと泣き出したナマエに慌てて近くにあった水を渡すと、真っ赤になった顔で一気に飲み干した。
「お、おい?」
コトンと空になったグラスをテーブルに置き、ナマエは俺の方に向き直った。
えぐえぐ、としゃくりあげる姿は不謹慎なことに愛らしい。
俺の胸元に頭を擦り寄せてきたので好きなようにさせてやると、そのまま俺の官服を小さな手で掴んだ。
「だ、大丈夫…か?」
コクン
音もなく頷いた頭を謝罪感をこめてわしわしと撫でてやると、だんだん泣き声が聞こえなくなり、頭がふらふらするようになり、…いつの間にか寝息が聞こえ始めた。
(悪いことしちまったな)
ナマエを起こさないように冷たくなったご飯をかきこみ、眠ってしまったのだから、と寝かせに行こうとしてふと気がつく。
ナマエの腫れた瞼と涙のあと。
こんなナマエを徹夜続きのジャーファルさんに返しに行くと…?
「やっべぇ…」
脳裏には鬼の形相のジャーファルさんが浮かび、全身から血の気がひくのを感じた。