マギ1
□the last lover's tryst
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例えば、彼が近所を放浪している野良猫だったなら私がこんなにも頭を悩ませる必要はなかっただろう。
しかし、残念なことに彼は″シン″という名のれっきとした人間であり、野良猫とは比べものにならない範囲を放浪している。
私の家に訪ねてくるのは数ヶ月に一度。
近所からも、もうそろそろいい人見つけたら?と言われるような年齢の女が待つべき男では無い気がする。
…それでも、ちょうど諦めかけたころに訪ねられるとつい受け入れてしまうのが悲しいながら現実だ。
最初に会ったのはもう十年以上も前のこと、彼は私の家の前で行き倒れていた。
一人暮らしだったのでそれこそ野良猫を拾うようなつもりでシンを介抱し、そこに銀髪の小さな男の子と身長が私の倍くらいある大きな男の人が、彼を申し訳無さそうに引き取りにきた時には度肝を抜かれた。
それ以来、お礼だの近くに寄ったからだのと最初の数回は理由をつけて、なんとなく予想はしていたけれどその数回で初々しい肉体関係をもって。
それ以降は「やあ」の一言でシンは私を訪ねてくる。
決まって独りでやってきては、気まぐれに私を抱いたり、知らない土地のことを話したり、最初にシンを引き取りにきたジャーファルくんのことやヒナホホさんのこと、それからさらに増えた仲間のことを話してくれていた。
そして、そんな関係がずるずる続いて彼が訪ねてくる頻度は少なくなり、その代わりに定期的になった。
そうなってからも早数年。
葉が木から落ち、畑仕事もあまりすることがなくなったころの夕方。
また彼はふらりと訪ねてきた。
多分…、3ヶ月ぶり?
「やあ、ナマエ」
『いらっしゃい、シン』
ふらふらと足元のおぼつかないシンにいつにない笑顔で話しかけると、彼は何故か驚いてから疲れきった笑顔を見せた。
きっと他にもこうやって訪ねて行く女の人はいたんだろうし、私はその中の1人。
彼が旅に出にくい身になったのも所帯をもった訳ではなさそうだけれども、随分偉い人になっているんだろう。
身につけている布が確かに上質なものに変わり、私と同じ土や草の染み込んだ匂いは薄くなっていた。全部私の憶測で確かなことでは無いけれど、もうそんなのはどうでもよかった。
これで彼に会うのは最後にするつもりだ。
とりあえず彼は今までにないほど疲れていて、あいさつもそこそこにこっくりこっくりと舟を漕いでいた。
『疲れてるなら寝る?』
「いや…、できればナマエのあのスープが飲みたい…」
『できたら起こすから』
粗末な寝台に大きな体を横たえて艶やかな髪をしばらく撫でていると、シンは本当に寝息を立て始めた。
その姿が幼子みたいに安らかなことに何故か胸を撫で下ろした。
なぜ、シンはいつもこの薬草だらけのスープを求めるのだろう。
妙に感傷的になりながら作ったそのスープは分量を間違えた訳ではないのに、少し塩分が多かった。
This is the last lover's tryst.
これが最後の逢瀬
久しぶりにあげるのがシンドバッドなのはどうかと思ったんですが、まあ一応ということで軽くスルーしてください
なんだかんだでこの人は書きやすいんです
こんなに長い間更新していなかったのに、閲覧してくださっている読者のみなさんには感謝感激です(T_T)!!
温かいメッセージもいくつかいただきました
一つ一つに返事できるようなマメな性格でもないので、この場でお礼を言わせてください
ありがとうございます!!