マギ1
□5.俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ
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小さな私室だが机と椅子ぐらいはある。
まさか部屋に押し込まれるとは思っていなかったのか、シャルルカンは椅子に腰を下ろしてキョロキョロと物珍しそうに部屋を物色していた。
身体を冷やしてまで私を待っていてくれたことに一応敬意を表して温かなハーブティーを淹れる。
何を話していいか分からず、かといって沈黙は耐えられないのでその作業をしつつ、軽くここ4ヶ月の近況報告をした。
4ヶ月は案外早く、シンドリアは季節の移り変わりがあまり感じられない。加えて王がいなくとも今回は優秀な政務官様が留守を預かっていたので、何も滞ることはなかった。
私も予定が狂うこともほとんどなく自分の研究がスムーズに進み、教授陣からも一目おかれるようになってきた。たしか……(以下略)
『以上、そんなわけであまりさみしさは感じてなかった』
「それが4ヶ月ぶりに会う彼氏に言う言葉かよぉー」
私が話している合間合間に、ことごとく「さみしかっただろ」と挟んできたので、しっかりと否定しておく。
嘘じゃない。
さみしくはなかった。
けれども、国を4ヶ月も離れて外交してきた人をそんなに冷たくするつもりにもなれなかった。いつもより低いところにある翡翠の瞳がティーカップに傾いているのを確認してから呟く。
『…おかえり』
「、ただいま」
それにシャルルカンは多少満足したらしく、せめてそれくらいは欲しいよなー、とニヤニヤして私は半ばやけくそ気味に残っていたハーブティーを煽った。
そもそもこいつは何のためにやってきたんだ。
問いただそうとしたら、目の前に刺繍が華やかな明らかに値が張りそうな長細い布包みが差し出された。
「ほらよ」
『なに?』
「言ってただろ、土産」
いや、明らかに高そうなんですけれども。
しがない食客の端くれのお給金では絶対手が出せなさそうなことが分かるほど。
受け取るのを躊躇っていると痺れを切らしたシャルルカンが私の右手を引っ張り出して、その上に布包みをのせた。
想像していたようなずっしりとした金属の重みはなくて少し安心した。
『…ありがとう』
覚えてたんだ(私は忘れてた)。
ほんと、なんでこういうところはマメなんだよぉ。
だから、きっとモテるんだ。
感謝の言葉とともに手を離してもらおうと思ったんだが、残念ながらそれはかなわなかった。
少し温まった厚い両手に右手を挟まれたまま、そっと目線をあげると真面目な顔をしたシャルルカンが私の変哲もない瞳を射していた。
残念なことに奴は本気で私のことが好きらしい。
「なぁ、俺が嫌いか?」
『嫌い? ううん』
嫌いならまず部屋には入れてないかな。
「なら、俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ」
『やだ』
「…てめぇ」
鋭い視線から逃げて自分の膝に視線を落とす。
さすがにこうずっとふらふらされると彼だって嫌だろう。新しい恋に走れず、かと言って相手がのらりくらりとしていては。
でも、だって私の気持ちだもの。
他人に感化されるのは違う気がする。
私の気持ち、
…私の気持ち?
「おいこら」
悪いけどちょっと待ってて。もう少しで答えがでるかもしれないから。
シャルルカンが私のことを好きだから、私もシャルルカンを好きになったらいい、っていうのは腑に落ちない。
でも…、これが答え?
『でも、シャルルカンが他の人にこうするのはもっとやだ』
翡翠の瞳をまっすぐ見て言うと、その奥が輝いた。
続いて呼ばれた名前は優しくて、甘く鼓膜を震わせていった。
なんだ、こんなに簡単だった。
そう、その眼差しを他の誰にも向けないで。
あとがき
やっと更新したと思えばこんな駄作です、ほんとすみません
いや、一応夢主ちゃんは好きになってたんだけど少し妬いてたらいいなぁとか考えてたらこうなりました
けど、一応完結です、完結ー!!
気づけば名前変換が無い最後なので少し直すかもです