小ネタ集

□ツナガルトイウコト
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ツナガルトイウコト



夕日が、街をオレンジ色に染めている。
そんな中、周りを染め上げるオレンジの中でも目立つ鮮烈な赤。

「あはははは......!
今日のところはこれぐらいにしとく?」

至るところに返り血を浴びたセーラー服の少女が爪を噛みながら笑う。
その目の前には、ボロボロになり立ち上がることもできない何人もの少女たち。
制服が微妙に違うことを見ると、他校の生徒なのだろう。

「次会ったら......、ブッ殺すよ?」

笑みを消して押し殺した声で囁く少女に、倒れていた生徒たちも慌てて逃げ出す。
仲間内で少女はこう呼ばれていた、「ゲキカラ」と。
来る日も来る日も喧嘩に明け暮れ、ひとたびブチ切れると何をするか分からない危険人物、それが周囲からの彼女に対する評価であった。
彼女自身、そうした評判を気にすることはなかったし、傷付いたり心を傷めたりすることもなかった。
少なくとも、彼女自身はそう考えていた......。


ゲキカラは顔の返り血を洗い落とし、(当人は全く気にしていなかったのだが、そうしないと道行く人からいちいちギョッとした目で見られてしまい、そのことが彼女にとっては煩わしかった)ぷらぷらと家路に就く。
途中、本屋に入っていくゲキカラ。
ゲキカラと本屋というのは、彼女を知る者から見れば奇妙な組み合わせだと感じるかもしれないが、実は彼女はマンガがわりと好きだった。
本人曰く「文字だらけの本は見てるだけで頭ガンガンする」らしいのだが、絵のあるマンガならば結構サラッと読めるらしい。
いつものようにマンガコーナーに向かうゲキカラだが、その途中でふと足を止める。
そこには、電車の写真集が置かれていた。
何かに引き付けられるように彼女はそれを手に取り、ページをめくり始める。
その中の写真一枚一枚を食い入るように見つめるゲキカラだが、とりわけ彼女が気に入ったのは、電車同士の連結作業の様子を写した写真だった。
なぜだろう、無意識に考え始めるゲキカラ。
「つながる」ことを求めているのかもしれない、という考えがふと頭によぎる。

「......バカみたい。」

思わず呟いていた。
これまでの自分は「仲間」になんて興味はなかった。
強い奴とのタイマンが、傷付き流れる血が、身体を走る痛みが、彼女の全てだった。
......いや、唯一、「大切」と呼ぶべき人間もいた。
しかしその人物も今やこの世にはいない。
今さら仲間なんて、と自嘲気味に口元だけで笑ってみるゲキカラ。

......とっとと欲しいマンガを買って店を出ようと考えた彼女が写真集を閉じようとした時、

「おー、やっぱりゲキカラじゃん。」

声をかけられる。

「......学ラン。」

そこにいたのは、ヘアバンドを着け
、男子用学生服を着ている少女だった。

「外歩いてたら、なんかゲキカラっぽい奴いるなと思って確認しに来たんだよ。」

明朗に言う学ラン。

「でも、ゲキカラが本とか意外だな〜。
何見てんだよ?」

ゲキカラの持っていた写真集をさっと取る学ラン。

「......電車か〜、好きなんだ?」

彼の問いかけに、

「......たまたま。」

なぜかやや不機嫌そうに答えるゲキカラ。

「別にスネなくてもいーじゃん。」

学ランがからかうような調子で言うと、

「......連結。」

一言ボソッと言うゲキカラ。

「えっ?」

聞き返す学ランに、

「電車の連結の写真見てたら、なんかいいなって思っちゃった。
......こんなの、らしくないよね〜!

喧嘩のことしか頭になくて、みんなから近寄られない、こっちからも近寄るつもりもない、そんな私が連結とか!
ほんと、ギャグにもなんない!!
あはははは......!」

自嘲するように大声で笑うゲキカラ。
店内の他の客も思わず振り返る。

「......いいじゃん、つながったって。」

静かに答える学ラン。

「何言ってんの!?
私、ゲキカラだよ!?
喧嘩して、周りボッコボコにして、誰からも好かれなくて......。
それでいいでしょ!?」

叫ぶゲキカラに、静まり返る店内。
しばらくは黙っていた学ランだが、

「......よし決めた、今日からお前はゲキカラじゃない。

そうだな〜、......「甘口」!
甘口とかいいんじゃねぇの!?」

突然笑顔で言い出したのを見て、困惑するゲキカラ。

「......だから、ゲキカラって名前に縛られなくてもいいんだよ!
ほら、ちょうど春だし、キャラ変......、みたいな?」

少ししどろもどろになりながら補足する学ランを見て、

「......ぷっ。
あはははははは!」

笑い出すゲキカラ。
自分でも何年ぶりか分からないほど、心の底から笑っていた。

「それにしても甘口って......。
カレーじゃないんだから。」

笑いながら突っ込むゲキカラ。

「やっぱ変かな?
パッと考えたから、あんまり良くなかったよな......。
別に甘口でなくても......。」「いや、甘口!
甘口にする!!」

苦笑しながら謝る学ランの言葉を遮るゲキカラ。
そのまま、さっきの写真集を手に取ると、レジに行き会計を済ませる。
そして出て行く彼女の晴れやかな背中を、学ランはずっと眺めていた......。


家への道を歩くゲキカラ。

《......よかったな。》

「えっ?」

何か声が聞こえたような気がして立ち止まる。

《もっと仲間を信じてやれ。》

「......優子さん?」

問いかけるゲキカラだが、声はそれに答えない。

《それと......、留年すんなよ?》

ゲキカラ、いや、甘口は頷き、再び歩き出す。
が、再び立ち止まる。

「あっ......、マンガ忘れた。
まぁ、いっか。」

と言ってニヤッと笑う甘口。


その日を境に、甘口は少しずつではあるが周囲とも歩み寄るようになり、それを見た学ランも、「洋ラン」としてイメージチェンジを果たした、というのはまた別の話である......。


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