小ネタ集

□17thシングル発売記念企画『テレビのソコヂカラ 〜生放送は大暴走だがや!?〜』
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テレビのソコヂカラ 〜生放送は大暴走だがや!?〜



愛知県、名古屋市周辺の地域で視聴されているローカル放送局、SBC(Sunshine Broadcasting Company)は1998年3月31日の放送開始以来、「17ch」として親しまれている。
そんなSBCが開局17周年を迎える2015年3月31日を目前としたある日、このような告知映像が流れた。

「特報! 2015年3月31日 5:00〜22:00、開局17周年記念・17時間連続生放送決定!!」

実を言えば、SBCは開局から年月が経ち、視聴率が低迷していたため、17周年という中途半端な節目ではあるが、チャンネルの数字に因んだイベントを行い、注目を集めて視聴率を回復させようと上層部が計画したのだった。
2014年の末から既に計画は動いていた。
番組の制作に携わるスタッフと、上層部が生放送のために呼び寄せた「ある人物」の初顔合わせの日、会議室で待つスタッフの表情は、みなどこか沈んでいる。

「どんな方なんでしょうね?」

SBC制作部のAD、宮前杏実が言う。

「わたしも直接会ったことはないけど、なんでも、聴取率0%だった某コミュニティFMのラジオ番組を看板番組にまで押し上げた敏腕ディレクターらしいんだ。
なんて番組だったかな、確か『マジカル......」「お待たせしました。」

宮前の問いに、ディレクターの柴田阿弥が答えている途中で、サングラスをかけた女性が入ってくる。

「はじめまして、松井玲奈と申します。」

サングラスを外しながら自己紹介する玲奈。
さらに、玲奈の後ろからやや小柄な女性が入ってくる。

「玲奈さんのサポートをしている、ADの木本花音です。」

「花音とは、私がコミュニティFMにいた頃からの付き合いで、私が「フリーランス」として独立する時もついてきてくれたんです。」

「フリー......、ランス?」

玲奈の言葉を聞いて軽く首を傾げる宮前に、

「特定の組織に所属しないで、仕事一件ごとに契約する働き方のことだよ。」

横から言う、黒縁メガネをかけ、短髪の、やや地味な雰囲気の女性。

「磯ちゃんさん、よく知ってますね。」

という宮前の返答に、

「一応、私もフリーランスだからね。
って言うか「磯ちゃんさん」って......。
何か変じゃない?」

突っ込む構成作家の磯原杏華。
そのまま、目の前のノートを玲奈に見せる。

「予め、いくつか企画を考えてみたんですが。」

しかし玲奈は、

「......悪いけど、個々の企画についてはディレクターの柴田さんと相談してもらえる?
あくまで私は「プロデューサー」だから。」

「どういうことですか?
上層部が玲奈さんを呼んだのって、わたしたち局の制作が不甲斐ないから、外部から実績のあるディレクターを入れて生放送を成功させるためって噂を聞いてたんですけど......。」

尋ねる柴田に、

「何言ってるの、私が番組を作っても低視聴率という問題の根本的な解決にはならないでしょ。
私はあくまで番組の中身について口は出さない。
番組を作るのはあなたたち制作スタッフの仕事、そして私はそれを全力でバックアップする。
ただし、企画書さえ出せば何でも通るとは思わないでよ。
数字が取れない企画まで通すつもりはないから。」

はっきりと言い切る玲奈。
そこから、改めて企画会議が始まる。
スタッフが協議し、柴田がまとめた企画書に玲奈が目を通して突き返す、修正した柴田がまた提出、玲奈はそれを再び突き返すということが何度も続く。

「......どうして承認してくれないんですか!?」

たまりかねた柴田が遂に感情をぶちまける。

「答えは自分で見つけなさい。
確かに、私が企画案を作っちゃうのは簡単だけど、果たしてそれが、長い目で見てあなたたちの、この局のためになると言えるかしら?
産みの苦しみを乗り越える力がなくて、番組なんて作れないわよ!」

玲奈の叱咤に、思いを新たにする一同。
今までにもまして、企画作りに熱が入る。
侃々諤々の議論の末、遂に企画案が出来上がる。
その結果、生放送を行うだけではなく、このアニバーサリーイヤーを盛り上げるために活動するアイドルユニットの結成も決まった。
グループ名は「17っ娘(じゅなっこ)」、SBC開局と同じ1998年生まれで17歳を迎える少女を集めてデビューさせることになった。
すぐさま、メンバー募集が開始される。
その後、様々な審査を経て、4名のメンバーが選ばれ、その数日後、SBC社屋(余談だが、壁面の観覧車が界隈のランドマークとなっている)の半地下になっている広場にてお披露目イベントが行われた。

「皆様、お集まり下さりましてありがとうございます。
私は、本日進行を務めます、SBCアナウンサーの二村春香です。

それでは、17っ娘メンバーの登場です!」

二村の呼び込みで入ってくる4人のメンバー。
早速、右端の少女が手を挙げる。

「はいっ!
4月17日で17歳になります、野口由芽です!!
以前からずっとバレエをやっていたので、その辺りをパフォーマンスに活かして、「エレガント担当」になることを狙ってます。
よろしくお願いします!」

「荒井優希、京都府出身です。
ゆきは、マカロンとアルパカがむっちゃ好きなんです。
これって、かなりアイドルっぽいですよね?
見てたら、他の3人ってわりとキャラ立ってる感じやから、ゆきはあえて「正統派アイドル担当」で行こうかなと思ってます。
よろしくお願いしま〜す!」

「はいっ!
山田樹奈です!!
実は私、友達に名前を少し変えて「じゅなっこ」って呼ばれることがあるんです。
だから、募集の記事に載ってたグループ名を見て、これは受けない理由がないと思ったんです!

見ての通り小柄ですが、それを補うぐらい大きくパフォーマンスして、皆さんに見つけてもらえるようになります!!
トークの流れとして、自分の担当を決めるなら、「元気担当」ですかね?
よろしくお願いしますっ!!」

「は〜い。
三重県出身、井田玲央名です。
誕生日が12月で、この中では一番生まれたのは遅いんですが、よく大人っぽいって言われます。
ということで......、「セクシー担当」になっちゃおうかな、と。
皆さん、応援してくださいね?」

四者四様、独自色ある自己紹介をする。

「それでは、続きまして彼女たちメンバーをプロデュースして下さる皆様をご紹介します。

まずは、振り付け・ダンス指導、ダンスパフォーマンスユニット「″B″eeps」の一員として活動される一方、クールなパフォーマンスと、トークで見せる女子力の高い姿とのギャップでバラエティでも人気を集める、石田安奈さんです!」

二村に呼び込まれ、ピンクのパーカーを着た石田が登場する。

「皆さんこんにちは〜、石田安奈です!
私って、テレビのイメージからフワッとした感じで見られがちなんですけど、ダンスになるとかなりスパルタなんですよね〜。
実は、レッスンでは結構ビシビシ指導しちゃってます!!
だから、メンバーから密かに怖がられてるかも......、な〜んてことはないように、練習の合間はフレンドリーに接するようにしてるんです。
みんな〜、私のこと、怖くないよね?」

メンバー側を向いて尋ねる石田だが、とっさのことで反応が微妙になってしまう4人。

「......も〜、みんなもうちょっとリアクションしてよ!
まぁ、まだデビューしたてだし仕方ないかな?

とにかく、まだまだ何の色にも染まっていないメンバーたちのこと、じっくり見守ってあげてくださいね!!」

一礼する石田。

「続いて、作曲・歌唱指導、あのヒット曲『Escape』でキーボードを担当したことでも知られる、北海道が生んだ逸材、ri(・o・`)nさんです!」

二村が紹介すると共に、いつの間にか舞台上手に設置されたキーボードで、『Escape』のイントロを弾きだす、鋲がついたレザーのジャケットを着たri(・o・`)n。

「只今ご紹介にあずかりました、ri(・o・`)nです。
実を言うと、作曲の経験はほとんどないんですが、ここにいるメンバーたちに初めて会った瞬間、なまらめんこいと思って創作意欲が湧きました。
作曲の実力自体はまだまだ拙いですが、私自身も成長するつもりで臨んでいきたいと思います。」

挨拶するri(・o・`)n。

「そして最後に、作詞・総合プロデュース、80年代から様々なタレントを売り出し、最近では東京・神田を拠点に活動するアイドルグループ「KND50」の仕掛け人も務め、そのメンバーやファンからは「うすすパパ」の愛称で親しまれる、織元臼志(おりもと うすし)さんです!」

二村の紹介を受け、スーツ姿に眼鏡をかけ、腕を組んだまま登場する織元。

「皆様、17っ娘メンバーお披露目イベントに足をお運び下さりまして誠にありがとうございます。
......ここで、皆様にお詫びしなくてはならないことが一点ございます。
皆様もご存知のように、現在私は、KND50のプロデューサー兼楽曲の作詞を務めておりますが、先日設立されました「チーム5」のオリジナル公演について、ファンの皆様からセットリストの完成を待ち望む熱い要望が多数寄せられております。
つきましては、一度引き受けたにも関わらず、大変心苦しいところではございますが、17っ娘のデビューシングルの作詞からは降りることを決意致しました。
私に代わりまして、その作詞は、このSBCで多くの番組制作に関わり、私自身大いにその実力に期待を寄せている、構成作家・磯原杏華さんに任せたいと思います。
もう一点申し上げなければならないのは、17っ娘の総合プロデュースに関しては、引き続き責任をもって務めさせて頂くということです。
SBCのため、そして何よりデビューするメンバーたちのため、全身全霊で努めたいと思っております。
......失礼、次の打ち合わせがあるものでお先に退出させて下さい。」

と言いながら舞台を降りる織元。
そのまま、局内の控え室に戻ってきたところで、部屋に駆け込んでくる磯原。
走った勢いでズレたメガネを直しもしないことが、何より彼女の動揺を表している。

「織元さん、どういうことですか!?
私、全く聞いてませんよ!!」

驚きを隠しきれない様子の磯原に、平然と話を始める織元。

「壇上でも言ったように、KNDのファンから「熱い意見」がじゃんじゃん寄せられていてね......。」

と言いながら自分のスマホを操作し、織元は「某・ネット掲示板」を表示させる。

「オイコラ「薄っぺらうすす」、よそのグループに歌詞書く暇があるなら、とっとと新公演書け」

「去年は「全チーム新公演を始める」って宣言しといて、また自分で言ったことをうやむやにするのか?
いっそのこと臼志じゃなくて「嘘志」に改名しろ」

画面をスクロールさせると、このような書き込みがずらりと並んでいる。

「ここまで言われて、新公演に着手しないわけにはいかないだろ?
まぁ、チーム5に関しては7割書けてるから完成まで時間はかからないよ。」

余裕の笑みを見せる織元。

「そ、そうなんですか......。」

と言うしかない磯原。

「それに、私もこまめに名古屋には顔を出すつもりだから、いつでも相談してきてほしい。
と言っても、東京との往き来ではどうしても目の届かない所もあるだろうから、プロデュースに関しても、メンバーを近くで見ている磯原くんのプランを積極的に取り入れたい。
あくまで総合プロデュースは私だから、責任は全て私が持つ。
歌詞も、プロデュースのアイデアも好きに考えてくれ。
以前ご一緒させてもらった時の君の仕事ぶりを見ていれば、君にはセンスがあることは一目瞭然だから、私も一切心配はしていない。
......いかんいかん、本当に新幹線に遅れてしまう。
それでは頼んだぞ、「いそそママ」。」

と言い残して去っていく織元の背中をただ見ていることしかできない磯原。

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