小ネタ集

□17thシングル発売記念企画『テレビのソコヂカラ 〜生放送は大暴走だがや!?〜』
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数ヶ月後、ついに3月31日、生放送当日を迎える。
前日30日の夜間からフル稼働で準備を続けてきたスタッフたちも、気合いを入れ直す。

「いよいよだね。」

柴田が言うと、

「はいっ!
なんかテンション上がって目が冴えてき......」

ガタッ!

威勢良く返事をした宮前だが、その数秒後、何の前触れもなく崩れ落ち、床で寝息をたて始める。

「ちょっと〜、さっきまでの元気はどこ行ったの?
杏実、起きて起きて〜!」

宮前の肩を揺さぶる二村。
制作と報道の違いはあるが、二人は同期入社で無二の親友である。

「う〜ん......、あれ、私寝てた!?」

目を覚ます宮前に、

「まったく、あんなハイテンションからいきなり寝落ちする人初めて見たよ!」

苦笑いする磯原。

「宮前、これ。」

そこに現れた玲奈が飴を一粒手渡す。

「ありがとうございます。」

宮前がそれを口に放り込んだ瞬間、

「......からーい!?
何ですかこれ!?」

目を見開く宮前。

「京都にある「激辛商店街」名物のハバネロ飴。
びっくりして目が覚めるよ。」

ニヤニヤ笑う玲奈。

「確かに......。
ありがとうございました!」

一礼する宮前。
すると、

「やったね、宮ちゃん。」

スーッと近付いてきた木本が宮前の肩をポンと叩く。

「えっ?」

きょとんとする宮前に、

「玲奈さんが激辛飴を渡して驚かせるのは、玲奈さんが見込みがあるって認めた人だけなの。
私も、初対面から、もらうまで半年かかったな〜。

......そういえば、フリーランスになって以来、いろんな局で制作の仕事したけど、そうやって行った先の社員で玲奈さんがあの飴あげたの、宮ちゃんが初めてなんじゃないかな?」

「......花音さん、私、頑張ります!」

ますます気合いが入った様子の宮前。
そこに、

「は〜い、みんな、おはよ〜♪」

真っ白なズボンに、派手な花柄のシャツを着て、やたらと腰をクネクネ動かしながら歩いてくる人物。

「おはようございます、Nakanikkoさん。」

柴田が挨拶を返した彼女(?)はNakanikko、巷で噂の「女子系男子」、つまりはオネエのスタイリストである。

「今日はSBCにとって大事な生放送ですもの、私も気合い入れてスタイリングするわよ〜!」

天を仰ぐNakanikko。

「先生、衣装持ってきました。」

その背後から、可愛らしい少女がいくつもの大きなトランクを引っ張ってくる。

「ご苦労さま、「おみず」。
部屋の端っこに置いといてちょうだい。」

この少女は山田みずほ、Nakanikkoの弟子として服飾技術の修行中なのである。

「さ〜て、まずは春ちゃん、オープニングはこんな感じでどうかしら?
テーマはズバリ、「吹き抜けるピンクの春風」よ。」

みずほが運んできたトランクを開け、二村のための衣装を選び出すNakanikko。

「素敵です!
Nakanikkoさんのコーディネイトはやっぱりハズレないですよね!!」

ふんわりしたピンクのニットに薄手のスカートを見て、満面の笑みを浮かべる二村。

「ふふふ、この道何年やってると思ってるの?
私の仕事は、画面に映る出演者を輝かせることなのよ!
美しい人はより美しく、そうでない人はそれなりに......、って、失礼なこと言わせないでちょうだい!!」

勝手に一人でボケて突っ込むNakanikko。

「......って、春香、そろそろ準備しないと間に合わないよ!」

壁の時計を見上げる杏実。
それを聞いて、二村はNakanikkoから衣装を受け取り、自分の控え室に入る。
慌ただしく準備を整え、社屋の玄関前にスタンバイする二村。
放映開始時刻の5時が刻一刻と近付いてくる。

《福岡、博多名物「たなか」の明太子は、夏みかん果汁を加えることで、ただ辛いだけではない、爽やかな風味を実現しました。
ピリッと辛いが、クセになる!
明太子なら、たなかの「菜津美」で決まり!!》

みかんの被り物をつけた長身の少女が登場する明太子のCMが明けると、5時になる。

「5秒前、4、3......。」

宮前が指で秒数を示し、キューを出した。
いよいよ生放送の幕が開く......。


SBC・開局17周年記念特別番組「テレビのソコヂカラ」


社屋をバックに番組ロゴが映し出され、そのままカメラがパンダウンして、二村の姿がフレームに収まる。

「みなさん、おはようございます。
SBC開局17周年記念特別番組「テレビのソコヂカラ」、オープニングの進行を務めます、SBCアナウンサーの二村春香です。

遡ることちょうど17年前の1998年3月31日、この名古屋の地に誕生したSBC。
開局以来、様々な苦難に直面しつつも、この17周年の良き日を迎えることができました。
これもひとえに、ここまで温かく見守ってくださった地元名古屋の皆様のおかげです。
そこで、我々局員一同は、皆様にささやかながら恩返しをしたいと考えています。
昨今のソーシャルメディアの発達に伴い、かつて大きなパワーを誇ったマスメディアの影響力も小さくなったと言われてしまうことが増えています。
しかし、テレビにはまだまだやれることがある、テレビが「底力」を見せることができれば、きっと皆さんを元気にできる、その信念のもと、私たち局員は一丸となって番組をお届けしていきます。」

熱く語る二村。

「......それでは、本日の番組スケジュールをご紹介していきます。」

死角から宮前が差し出したフリップをカメラに向ける二村。


5:00〜5:30 オープニング
5:30〜8:00 グッドモーニング530
8:00〜9:00 米米戦隊フリカケンジャー
9:00〜12:30 情報まるもうけっ!
12:30〜13:30 ナゴヤ一芸王決定戦・2015春
13:30〜14:00 初歩の英会話
14:00〜15:00 趣味の楽園
15:00〜15:30 実絵子のお茶目にクッキング
15:30〜17:30 はかたネットまりかたに・テレビショッピング
17:30〜18:00 エンタメ天下一品(エン天)
18:00〜18:30 SBCイブニングレポート
18:30〜19:00 歌のトップステージ
19:00〜19:30 クイズ・プレイバック19XX
19:30〜21:30 SBC開局17周年記念ドラマ
21:30〜22:00 エンディング


「そして、ここに書かれた番組の他にも、様々な企画が用意されているんです!
なんと、社屋地下の広場におきまして、8時から18時まで17っ娘メンバーとの握手会イベントが行われます!!
この模様についても、随時中継を行う予定です。
現在はまだ会場は準備中なのですが、地下広場から、新人の惣田アナウンサーに現在の様子を伝えてもらいます。
それでは呼んでみましょう、惣田さ〜ん!」

二村が呼びかけた瞬間、画面が切り替わる。

「はい、こちら、SBC本社ビルの地下にある広場では、17っ娘メンバーとの握手会イベントのため、準備が着々と進められています!
皆さん、おはようございます!!
入局一年目、SBCアナウンサーの惣田紗莉渚です。
早速、準備をしておられるスタッフさんにお話をお伺いしてみましょう。
おはようございます。」

ジャージ姿の長身のスタッフにマイクを向ける惣田。

「......おはようございます。」

答えるスタッフ。

「こちらは、美術スタッフの......、」「荻野です。」「失礼しました、荻野さんです。
荻野さん、今は何をされているのですか?」

「ブースの設営のために、仕切りを運んでいます。
握手するメンバーの方々はもちろん、来て下さるファンの皆さんにも、安全かつ快適なイベントを楽しんでもらえるよう心を込めて設置しています。」

惣田の質問に、丁寧に答える荻野。

「そこまで考えておられるなんて、感動しました〜!」

やや大げさにリアクションする惣田。

「荻野さん、ありがとうございました。
......さて、会場の準備が行われている中、早くもイベントのために待機しておられるファンの皆さんがいるようですので、お話を伺ってみたいと思います。」

広場の端の方でビニールシートを敷いて待っていると思われるファン(ハッピを着て、かなり「それっぽい」出で立ち)の一群に近寄っていく惣田。

「おはようございます。
何時間ぐらい並んでるんですか?」

惣田が先頭のハッピを着た女性に尋ねると、

「そんなに長くないですね。
こういう接触系イベントは初めてなんですけど、朝からやるって聞いて、混んでたらイヤだなと思って早めに来てみたら、スタッフさんが入れてくれなくて、さっきまで近くのコーヒーショップで時間を潰してました。」

答える女性。

「なるほど〜。
それで、そのハッピは手作りですか?」

「いえ、専門のショップがあるので注文して作ってもらいました。
実はこういう格好は初めてで。
こちらにいる竹内さんの方が慣れているので、こういうグッズのショップとかも紹介してもらいました。」

すると、傍らにいた竹内と呼ばれた女性が、

「まぁ、鎌ちゃんと私は元々アニメ好き同士で知り合ったので、オタク歴は二人とも長いんですけどね。
私は、昔から美少女戦士とかが出てくる作品が好きで、基本的にアイドルは興味なかったんですけど、一回チラッと見てから、「まさしく二次元がそのまま飛び出してきたんじゃないかってぐらいかわいい」って思って、それ以来もうハマっちゃって!
今では、デビューしたてのまだまだプロっぽくなってない子たちを1から見守るのがむちゃくちゃ楽しいんですよ!!
ほら、最近はアニメでも「アイドルプロデュース」って流行ってるじゃないですか!?
私が思うに......。」「残念ながら中継時間がもう無くなってしまうんです!
まだまだお話を聞きたいところですが、そろそろ二村さんにお返ししま〜す!!」

話に熱が入りだす竹内の様子を見て、インタビューを打ち切る惣田。

「惣田さん、ありがとうございました!
インタビューにご協力頂いた皆様にもお礼申し上げます。
さて、まもなく時刻は5時30分、名古屋の皆さんの朝のお供、『グッドモーニング530』の時間です。
それでは、司会の松嶋珠理人さん、よろしくお願いします!!」

「二村さん、ありがとうございました!
おはようございます、グッドモーニング530、司会の松嶋珠理人(まつしま じゅりと)です!!」

二村からの振りを受けて、映像は屋内のスタジオに切り替わり、セットの真ん中で挨拶する、清潔感ある短髪にスーツ姿の司会者、松井珠理人。

「皆さん、ぐもに!
アシスタントの福士奈央です!!」

松井の隣で挨拶する福士。

「福士ちゃん、その「ぐもに」って浸透してるの?」

「珠理人さん、継続は力なりですよ!
根気よく続けていれば、きっと覚えてもらえます。
これでも、静かなるブームが起こってるらしいです。
最終目標として、流行語大賞を本気で狙ってますから!!」

はっきりと答える福士に、

「福士ちゃん、今日も元気だね〜!」

「はいっ!
何と言っても珠理人さんは昔から私の憧れだったので、そばにいられるだけでテンション上がっちゃって......。
そんな人と番組をご一緒できるなんて、栃木から出てきてよかったです!
珠理人さん、まだまだふつつかな私ですが、これからもよろしくおね」「......おはようございま〜す!
たった今、地下の中継から戻ってきました、惣田紗莉渚で〜す!!」

それとなく珠理人に寄り添おうとした福士との間にスルッと入り込む惣田。

「おはよう惣田ちゃん、中継お疲れ様!
メイン出演者も揃ったし、そろそろ番組始めましょう!!
今日も名古屋の皆さんに役立つ情報をお届けいたします。
それでは、2015年3月31日火曜日のグッドモーニング530、スタートです!!」

そのまま、何事もなかったように番組が始まるが、よく見ると惣田に対して福士が一瞬だけ凄まじい表情で睨みつけていた。

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