ハイキュー!<短編>

□距離<東峰>
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最初の頃はあたしの方があいつのこと守ってたのにいつからだろう?


「大丈夫か?」


この立場が逆転したのは













「いい、自分で立つ」


素っ気ない返事をしてせっかく差し出してくれた手を振り払う
普通は「ありがとう」と言って立たせてもらうのが女の子なんだろうけどいつも頼りない男子を守ってたせいかいまいち男の子は頼りない気がして…
ましてやこいつに頼るなんて!


「ななさんはつよいなぁ」


絶対ぜえぇったぁいありえない!

あたしはなんだかこの幼なじみのこのにへら笑顔に異様にイライラしてほっぺたをつねる


「イタタタイタイ!なにすんだよ!」

「なんとなく」


頬をさすりながら涙目のこいつ東峰 旭を見上げる中2からいきなり背が伸び始めた旭は今やもう「社会人ですか?」と言われても文句は言えないくらいで顔もそれに負けないくらい老けた顔をしている


「で?なんの用?」

「ん?あぁ、一緒に帰ろうと思って」

「あんた部活は?」

「ちょっとな、今は行けない状態なんだ」

どんな状態だよと心の中でツッコミつつあたしは正直に答えた


「イヤだよ」

「なんで?!方向一緒じゃんか!!」

「それでもイヤなの」

「なにそれ!」


本気でショックを受けてる旭を無視してあたしはスタスタと教室を出て行く。それに慌ててあとを追ってくる旭。結局は一緒に帰るいつものパターン


(小さい時からそうだったなぁ)


でも、以前と違うのは旭が前に居るってこと


(昔はあたしの後ろに付いて歩いてたくせに)


広い肩幅
歩幅は早歩きしないと追いつけない。横顔はもう男の顔をしていた

(もう少し“男の子”でも良かったのに)


なんて生意気なことを考えてるあたしは旭に対して「バーカ」とたまさらに可愛くない事をぶつけた


「いきなりなんで?!」

「なんとなく」

「最近そーゆーこと多いよな」

「うるさいバーカ。前向いて歩けバーカ」

「バカバカって…」


苦笑いな旭をアホ顔と呼んでまたバカにした













〜それから1ヶ月


(あ、旭だ)

旭は草原の上でたそがれていた。


「旭」


名前を呼ぶとビクと肩が震えた。え?なんでそんなオドオドしてるの
あたしのことを確認して安心したようなため息をつく

旭のそばに行くとドカとさも当然のように隣に座る旭も別に驚きもせずに数キロ先を見つめてた


「旭悩み事があるといつもここくるよね」

「・・・・(図星)」

「…バレーがしたくなった?」

「・・・・・」


わかりやすい
まず始めにそう思った。旭が黙り込むのはウソをつきたくないから
これは昔となんにも変わらない。旭のいい部分と言えばいいんだけど悪いと言えば悪い部分だなぁ


「バレーが‥」

「ん?」

「バレーが嫌いになった訳じゃない。チームメイトもみんな俺よりずっとずっと頼りになるし信頼もしてる、しかもこんな俺をエースって呼んでくれて‥」


そこまで言うと旭はまた黙り込んでしまった


多分だけど旭は前から薄々“エース”と言う肩書きにプレッシャーを感じていたんだと思う。その不満が今回こんな形で現れてしまった。
旭は人一倍責任を感じやすいから…
でもね、旭…


「あたし、バレーしてる姿の旭は唯一格好いいと思ったよ」


「・・・・?」


「高校2年?の時だっけかなぁー‥旭がシューズ忘れたかなんかであたしが体育館に渡しにいくはめになって‥それで‥」


そうあの時からだった
あの時からあたしは旭との距離を感じるようになった、もう、昔には戻れないんだなって思いながら旭を見つめてた


「…あんたにバレーを取ったらなにが残るの?」

「・・・・・」


自分でもキツい言い回しだなって思う
でも単純な旭にはこの言い方が一番だと思った
あんたにバレーを取ったら何が残るの?か…

いっぱいあるよ
優しさ、逞しさ、穏やかさ、友達、仲間、家族、他にもいっぱい
あんたが気がついてないだけ


バシッ


旭の背中を精一杯たたく


「い゛だっ」

「ほら早く行け!みんな待ってるよ!」


きっとみんな待ってるよ 旭とバレーをするのを


「…ななさん…ありがとう」

「いーから早く行けバーカ」


あたしにお辞儀をして去っていく旭の背中はいつもより遠く感じた
またあたしと旭との距離が広がっていく
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