長編(與儀)
□You are My only shining star【執筆中】
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永遠にも感じられる暗闇。
どの位の時間が過ぎた?
1時間?
2時間?
それとももっと沢山?
…もしかしたらほんの数分かもしれない。
静寂。
己の鼓動が五感を支配し飲み込むような静けさ。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク
【駄目ダヨ…駄目ダヨ…駄目ダヨ…】
誰?
どこにいるの?
【ソコニイナキャ駄目ダヨ】
どうして?
ここは暗くて寂しいよ?
そこに連れて行って。
私も行きたい。
手を伸ばせば…出口がある?
ねぇ、そっちへ行きたいの。
【序章】
『起きるウサ!朝ウサ!』
突然のしかかるモフモフした塊に叩き起こされ、まだ閉じていたい瞼をこじ開ける。
軽い頭痛に加え少し躰が重いが、仕事に響く程ではない。
単なる寝不足。
今調査している事件も大詰めになってきて少々根をつめた結果の事だ。
本当はもっと眠っていたいが今日もその続きを行うべく現地へ飛ぶ為そうも言っていられない。
『莉比都…どうしたウサ?どこか痛いウサ?』
私の顔を覗き込むこの優秀な兎型ロボットの言葉で、自分の瞳から頬にかけてうっすら泣き跡がある事に気付く。
白くて柔らかい頭をそっと撫でて大丈夫だと伝えると兎は部屋を後にした。
…あぁ、きっとまたあの夢を見たんだ。
目覚めると内容は見事に脳内から消去されてるくせに、不快かつ憂鬱な気分だけはしっかり残るやっかいな夢。
どうせ忘れてしまうならそんな気分も除去して欲しいと忌々しく思う。
夢には原因があるなんてよく聞く話だが、肝心の内容がわからないなら解析方法も謎のままなのだ。
都度残されるのはこの涙の痕跡と心のモヤモヤだけなんて手の打ち様が無い。
常温の水で乾いた喉を潤しながら、体調が優れないのは寝不足だけのせいでは無いと考えを改める。
今日は確か朔さんと喰君も一緒のはずだ。
早く朝食を済ませて仕事の事に集中しよう。
一つ深いため息をついて、名残惜しいベッドから立ち上がった。
「おはよう、キイチ。今帰ったの?」
共同リビングの扉を開けるとソファにキイチの姿があった。
「あぁ…莉比都ですかぁ…。
もーぅ全く朔ちゃんの人使いの荒さには困ったもんですよぅ!
こんな時間まで仕事なんて肌荒れしちゃいますぅ…」
頬を膨らませ、不機嫌さを微塵程も隠そうとしない15歳の彼女は、私より3つも年下だがココへ来た時期がいくらも変わらず言わば同期のような関係にある。
今のように不機嫌になったり憎まれ口を叩いたりと、素直に感情を表に出す彼女の性格は、上手く感情表現が出来ない私からすると羨ましい限りだ。
感情表現が出来ない…
と、言うより私は感情に欠落があるのかもしれない。
喜怒哀楽を感じる瞬間はあるのだろうけど
周囲の人々に比べて、自分がそれらに対し希薄な表現しか出来ないと、自己分析出来る程に感情的な何かに捕われた記憶が無い。
我ながら寂しい人間だなと思う。
いつからこうなったのか…なんて考えてみても仕方の無い事だけれど。
「朔さんは?喰君も珍しくまだ起きてないのね。」
時計に目をやる。
針は任務開始時刻から逆算して、2人の姿を確認しなければいけない様な数字を過ぎた所だ。
朔さんはいつもの事としても、喰君の姿も見えないなんて…私の確認ミスだろうか。
「え?朔ちゃんと喰君なら私が帰って来たのと入れ違いで出て行きましたよーぅ??」
「それっていつ頃?」
「30分程前ですけどぉ?」
そろそろ疲労した体が限界なのだろう。
気怠そうにクッションを抱えながらキイチが答える。
ここ数日キイチの姿を見ていなかった。
きっとろくに寝てもいないのだろう。
隙間から覗く瞼は閉じられ、そのまま眠ってしまいそうだ。
しかし…30分前なんて、仮に私の確認ミスだとしても起こしに来るなり、何らかのアクションがあるはずだと思うんだが…。
伝言も無しに行ってしまうなんてどういう事だろうか。
とりあえず上司である朔さんに連絡を取ろう。
「ありがとうキイチ。部屋に戻ってゆっくり休んでね」
言いながら部屋を後にし、左手に持った携帯の履歴を素早く表示する。
一番上の見慣れた番号にアクセスすれば数回のコール音の後、番号の主がいつものハイテンションで応答した。
『よーぅ莉比都!悪ぃなぁ、何も言わずに出て来ちまって!
そろそろこっちからかけようって思ってたとこだったんだけどよー!』
「朔さん…本当にかけようと思ってました…?怪しいんですけど?」
『…ん?まぁまぁそう突っ込むなよ。寝坊しちまって慌てて出たもんだから伝言も出来なくて悪かった!な?悪かったってー!』
「…寝坊って…今日の任務開始時刻より随分早いですよね…。私には変更連絡来てませんでしたけど?」
『あぁ、その事なんだけどよ。おまえ急なんだが貳號艇に向かってくれ』
「貳號艇…ですか?…どうして?」
『昨日まで調べてもらってた件、実は向こうの別件と繋がりがありそうなんだ。こっちの調査はお前のお陰で後始末も同然だし、何より貳號艇長様のご指名だからな!現段階でこの件に一番詳しいのはお前だから是非にって話だ』
「なるほど…平門さん直々のお達しなら仕方無いですね。どうせ朔さんいくつか借りがあるんでしょうし…ね?」
『あっはっは!わかってんねー!!んじゃそういう事で頼んだぞー!』
笑い声と共に豪快に通話が途切れた。
私の任務に変更があったとは言え、30分早く朔さんと喰君が向かったと言う事は事態に何らかの急展開があったのかもしれない。
詳細が気になる所ではあるが…貳號艇に着けば平門さんから説明はあるだろう。
それに朔さんだって大雑把だが、仕事の事になれば頭がキレる(大雑把だが)。
その点では私は自分の上司として、また個人として尊敬している。
つまり…私は言われた通り自分の任務をこなすべく準備を進めればいいのだ。
私の任務。
能力者と呼ばれる異形の物達を滅し、それらを生み出す組織「火不火」を殲滅する事。
そう、私は連合国家防衛最高機関「輪」第壱號艇闘員なのだ。