第捌神饌所

□3月3日/イヅギン
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 三割増しで眉間に皺を寄せたイヅルが、食材の詰まった袋を両手に提げて歩いている。

「吉良副隊長、買い出しですか? お疲れ様です」

 商店の立ち並ぶ界隈から出ようとしたとき、イヅルは三番隊の隊員の一人とすれ違った。席官はもちろん、席官相当クラスの実力を持つ者や特別な任に就いている者ならすぐ思い出せるイヅルだが、彼の名前は咄嗟に出てこなかった。

 平の隊員でも、部下は部下。イヅルは穏やかに笑って挨拶を返した。

「こんにちは。これからデートかい?」

 彼の背中に隠れるように、はにかんで会釈する女性死神。微笑ましい二人の姿に、ささくれ立っていたイヅルの気持ちが、ほんの少し暖かく……なりかけた、そのとき。

「副隊長はデートなさらないんですか?」
「誰と?」
「あっ……」

 慌てて口を塞ぐ仕種が、実にわざとらしい。少し叩けばボロを出す類だ、とイヅルは踏んだ。

「それは、僕にはデートしたい相手がいるって前提の質問だね? 相手が誰だか知ってて、どうしてデートしないのって訊いたんだよね?……知りたい?」

 イヅルの想い人は、なかなか素直にならない天邪鬼で、今日も簡単なお願いなのに聞き入れてくれなかった。だから、ちょっとお仕置きして閉じ込めてある。根負けしてイヅルの『お願い』を叶えてくれたときのご褒美を買いに出てきたのだ。

「い、いえっ、遠慮させていただきます!」

 二人は手に手を取り合って、イヅルが無意識に醸し出すドス黒い魔空間から駆け出していった。

「隊長がどれだけ可愛いツンデレなのか、特別に教えてあげようと思ったのに……」

 出てくるときは、まだツンしかない天邪鬼だった。思い出した途端にイヅルの表情が険しくなる。

「水着を着てみてくださいって頼んだだけなのに、なんであんなに怒るんだか……ちゃんと暖房もいれたのに」

 どうせ悪趣味なスクール水着だろうと吐き捨てるように言われてカチンときた。せっかくの休日なので、ギンをお姫様抱っこして瀞霊廷中を練り歩きたいと言ったら、副隊長罷免を持ち出された。さすがにそれは諦めた。表で堂々とイチャこけないなら、二人きりという完璧にデキあがったシチュエーションで羽目を外してみせてほしい。

「散歩だったら、いつも夜の食事がてらお付き合いしてるんだけどな」

 イヅルが隊首室に挨拶に向かった朝の九時には、もうギンはいなかった。昼前に覗いてみたら、帰ってきていた。戻ったばかりのところを申し訳ないのだが、と後ろ手に隠し持っていた水着を渡そうとしたら、「アホか」の一言で切って捨てられた。

 なんでですか、と縋りつくふりをして懐に忍ばせておいた麻酔薬で昏倒させてから、極秘で入手した霊圧を乱す薬剤を嗅がせて、身ぐるみ剥いで着替えさせた。それでも念には念をと首筋から鎖骨まで、前も項にも見える範囲すべてにキスマークを付けると、イイ気分になれるという香を焚いて放置してきた。

「その気になっててくれたら、最高に気持ちよくしてあげるのに……」

 真っ白な腕に絡まった紺色の肩紐。捩った細腰のラインが映える濃色で光沢のある素材。ローション塗れにした肌と布地の隙間から指をいれて、あんな悪戯やこんな悪戯を……

「隊長? イイ子にしてばふっ!」

 鬼道で閉じた部屋を開けたとたん、香炉がイヅルの顔面にクリーンヒットした。

「あんだけ薬は使うな、て言うたやろッ!?」

 大怪我をしたときに麻酔が効かなかったら困るとズレた意味で泣きつかれ、イヅルの保護欲スイッチが入る。よしよしとギンの頭を撫でて宥めた。

「もしそんなことになったら、僕がちゃーんと治療してさしあげまちゅからね。だから安心してくださっていいんでちゅよー?」


 * * *
『ちょい○○ったー』という診断で、
イヅルは『チョイ魔王』って出たんだけど、
彼はS属性なだけで、魔王クラスではないと判断し、
あっさりボツ送り。

ポジション的には、ラスボス一歩手前とか、中盤の山場あたりのボス。
回避不能な重要イベントからの強制バトル用キャラ。
固有ボス戦BGMが用意されてても納得できる系。
(ステータス異常技を多用とか、わりとエグい戦法を使用しそう)

異議は認めますww。
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