有里湊幸せ計画
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学生にとって安らぎの時間である昼休み。2-F組ではとある三人が一人の少女を囲んでいた。
「…これ、完全に爆睡してんな」
「もう昼休み終わるよ名無しさん!」
ゆかりが思い切り体を揺さぶるが、ぴくりとも動かない 名無しさん。完全に夢の中へと旅立っているようだ。
湊が呑気に欠伸をしていると、それをキッと睨みつけるゆかり。何故こんなにも彼女が怒っているのか、湊には検討もつかない。
「有里くん、名無しさん起こして」
「…え、何で?」
「聞きたいことがあるからに決まってるでしょ!」
「何で僕が」
「いいから早く!」
怒りの矛先が湊に向けられ、苦笑する順平。従った方がいいって、といいたげな目で訴えられ渋々了承する。
これだけ爆睡してれば起きるわけないのに。そう思いながら、肩を軽叩いて「名字さん起き て」と声をかければ。
「愛しの有里くんの声が聞こえごはぁ!」
「名無しさんッチー!!」
「ちょっと有里くん何やってんの!?」
「ごめん、つい手が」
湊の声により一発で起きたのにも関わらず、起こした本人の手によって再び夢の世界へ旅立った名無しさん。反射的にチョップをかまされ、ぐるぐると目を回している。
「オイ名無しさんッチ!」
「起きなさい!」
「……お花畑見えた」
どうにか意識を取り戻した名無しさんの肩を、ゆかりが 勢いよく掴むとびくりと震える少女。
「……正直に答えなさいよ。昨日、どこで何してたの?」
「え、ゆかりちゃんいきなり何?」
「いいから答えなさい」
バックに鬼を纏ったゆかり、怯える名無しさん。話についていけない湊は首を傾げた。
「えーと…昨日は寮まで有里くんを尾行して」
「……殴っていい?」
「落ち着け湊、話が進まねぇ」
「アンタまたバイト増やしたでしょ」
「う」
どういうこと?と順平に聞けば、こっそり「アイツ一人暮らししてんだよ」と耳打ちされた湊は目を丸くした。
理由はわからないが、まさか目の前で説教されている少女が一人暮らしとは予想外すぎた。
「前もバイト増やして過労で倒れたこと忘れたの!?」
「いや、だって…」
「名無しさんは自分の体をぞんざいにしすぎなのよ!減らしなさい!」
「そんなに怒らなくても…」
怒るに決まってるでしょ!というゆかりの怒号が教室中に響く。未だに怒り心頭のゆかりを宥める順平に「後は頼んだ」と耳打ちされ、落ち込んだ名無しさんを残して二人は教室から出て行った。
(後は頼んだ、なんて言われても)
目の前の少女はうっすらと涙を浮かべ、想像以上に落ち込んでいるのに、どう声をかけろというのか。
「…名字さん、」
「……だって、一人は寂しいんだもん」
「え?」
少女の呟きは、昼休みの終わりを告げるチャイムにかき消された。