有里湊幸せ計画

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「有里くん、悩み事?」

「え?」

ぼんやりとソファーに腰掛けてい た湊にそう話しかけてきたのは、 つい先日ペルソナ使いとして目覚 めた山岸風花。まだ馴染めていな い彼女にまで声をかけられるほ ど、表情に出ていたのか、と湊は 気付く。

「もしかして、名字さんのこと?」

「… 知ってるの?」

「彼女、小柄で可愛いし、運動神経抜群で私のクラスの男子にも人気だから…噂になってるよ」

少し入院してるんだよね?そう聞いたところで風花はギョッとした。湊の表情が先ほどよりもより険しくなっていたからだ。

「あ、有里くん?」

「何」

「何、って…」

どうして怒ってるの?なんてことは聞けない。湊から溢れ出る黒いオーラに気圧された風花は、ゆっくりとゆかりの側に避難した。そして同時にやけににやついた順平が湊の側に寄る。

ああ、なんて自殺行為を、と思っ たが時既に遅し。

「湊クーン、ヤキモチですかー?」

「順平、頭大丈夫?」

「ひでぇなオイ!名無しさんッチってああ見えて結構モテんだよな」

「…だから?」

飄々とかわしてはいるが、滲み出 るオーラは更にどす黒いものへと 変化する。流石にヤバいと判断し た順平は、とっさに名無しさんの身を案じる話題に切り替えた。

「しかし名無しさんッチが入院とか心配だよな」

「退院したら説教ね。まあすぐ元気になるとは思うけど…」

ゆかりがそう言いかけてちらりと湊の表情を窺うが、相変わらず不機嫌な為に名無しさんの話題自体を逸らそうとした時。

「なんだお前たち、名無しさんと知り合いなのか」

「あ、真田センパイ」

ひょっこり姿を表したのは同じペルソナ使いであり、湊達の先輩にあたる真田明彦だった。

「名無しさんのこと知ってるんですか?」

「ああ、彼女とは走り込みの最中に知り合ってな。馬が合ってたまにトレーニングに付き合ってもらってるんだ」

今日も見舞いに行ってきた、と口にしたところで湊が立ち上がる。

突然のことに皆唖然としている中、般若のような形相で真田に詰め寄った。

「名字さんとはどういう関係なんですか?」

「は?いや、だから走り込みの、」

「ど う い う 関 係 な ん で す か」

「落ち着け湊!」

順平が必死で宥める中、真田は当然湧き出てくる疑問を口にした。

「有里は何であんなに怒ってるんだ」

「えっと、それは私にも…」

「…多分本人にもわからないんじゃないですか?」

どうみても嫉妬にしか見えないけど、というゆかりの言葉は誰にも届かない。

なんだかんだ言って、徐々に気に なり始めてるじゃない。そう心の 中で呟いて、荒ぶる湊の後ろ姿を 見ながら小さく溜め息をついた。

とある寮で自分を中心にそんな修 羅場が繰り広げられているとも知 らず、絶賛入院中の名無しさんは思わぬ形で手に入れた湊のメルアドに、呑気に一通のメールを送っていた。

【昨日はありがとう。】

そのまま寝てしまった為、たった 一行のそっけないメールを送って しまったが、ムカムカしていた湊 の心の余裕を取り戻すには充分 だった。

(誰と仲良くなろうが関係ないのに)

今日の自分は何だか変だ。そう思いつつ、しばらく携帯を見つめまたぼんやりとソファーに座り、ゆっくりと返信するのだった。


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