有里湊幸せ計画
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退院した次の日の休み時間のこと。名無しさんはしかめっ面で悶々と悩んでいた。
「ねえ、ゆかりちゃん」
「何?」
「有里くんのパンツって何色かな?」
「とりあえずアンタは一回殴られてきなさい」
もう殴られました、と差した頭の 上には見事なたんこぶが出来てい る。それを見てゆかりは一つ溜め 息をついた。
「退院して少しは温和しくなったかと思えば…有里くんに変態的行動とか発言するの止めなさいよ。困ってるじゃない」
「え…そうなの?」
「そうなのって…まさか本気で言ってるワケ?」
「だってどうやってアピールして いいかわかんなくて…初恋だし」
「ぶっ」
名無しさんの口から出た初恋というワードにゆかりは思わず吹き出す。温和しくしていれば可愛い小動物系、密かに人気のあるこの少女がまさか脱力系少年・ 有里湊に初恋とは。笑いをかみ殺して、今ある限りの知識を名無しさんに教えることにした。
肝心の湊は自分の机に突っ伏し睡 眠を試みるが、近くから聞こえる 自分の話題になかなか眠れず、狸 寝入りを決め込んでいた。
(……僕にどうしろと)
普通この手の話題は本人のいないところでするものじゃないのか。突っ込みたい気持ちを必死に抑えつつ、嫌な予感しかしない湊は目を閉じる。
近くでそれを傍観していた順平は荒ぶる腹筋と格闘しつつ、「頑張れよ」とこっそり耳打ちをすれば、目にも止まらぬ速さでボディーブローをお見舞いされ屍となった。
そこへゆかりに何かを吹き込まれた名無しさんに「あ、有里くん」と声をかけられ、今起きたと言わんばかりの顔で起き上がる。
「… 何?」
「うん、あのね…この間はありがとう」
「もう大丈夫なの?」
「この通り元気です」
確かに登校して早々にハグをかまされた挙げ句、パンツ何色?などと聞かれ殴ったな、と思い出す。
そんないつも通りの名無しさんに戻ったはずだが、今の彼女には見受けられない。スカートの裾をギュッと握り締め、視線を宙に泳がせている。
こんな乙女、僕は知らない。湊は心の中で呟いた。
「そ、それでね、有里くんにお礼
したくて」
「うん」
「わ、わわわ 私と、で、でででデートしてください!」
「何でどもってんのよアンタは!」
「だ、だって正攻法とか緊張するんだもん!」
すかさずゆかりに突っ込まれ、名無しさんはあわあわと焦る。
どんだけ変態的行動に慣れてるん だ、と小さく溜め息をついたが。
「…いいよ」
「へ?」
「デート、するんだろ?」
「いいの!?」
「名字さんが変態行動しないなら」
「し、しない!」
ならいいよ、と言えば目を輝かせ大喜びする名無しさん。
どうして僕にそこまで、という疑問はしまっておくことにした。
「聞きました奥さん」、「デートなんて青春だな」 などとほざいてた順平といつの間にかいたクラスメートの友近にはアッパーをお見舞いして、小さく溜め息をついたのだった。
(デート、いつにする?)
(…いつでも)
(じゃあ来週の日曜日!)
(はいはい)