有里湊幸せ計画

□09
1ページ/1ページ


退院した次の日の休み時間のこと。名無しさんはしかめっ面で悶々と悩んでいた。

「ねえ、ゆかりちゃん」

「何?」

「有里くんのパンツって何色かな?」

「とりあえずアンタは一回殴られてきなさい」

もう殴られました、と差した頭の 上には見事なたんこぶが出来てい る。それを見てゆかりは一つ溜め 息をついた。

「退院して少しは温和しくなったかと思えば…有里くんに変態的行動とか発言するの止めなさいよ。困ってるじゃない」

「え…そうなの?」

「そうなのって…まさか本気で言ってるワケ?」

「だってどうやってアピールして いいかわかんなくて…初恋だし」

「ぶっ」

名無しさんの口から出た初恋というワードにゆかりは思わず吹き出す。温和しくしていれば可愛い小動物系、密かに人気のあるこの少女がまさか脱力系少年・ 有里湊に初恋とは。笑いをかみ殺して、今ある限りの知識を名無しさんに教えることにした。

肝心の湊は自分の机に突っ伏し睡 眠を試みるが、近くから聞こえる 自分の話題になかなか眠れず、狸 寝入りを決め込んでいた。

(……僕にどうしろと)

普通この手の話題は本人のいないところでするものじゃないのか。突っ込みたい気持ちを必死に抑えつつ、嫌な予感しかしない湊は目を閉じる。

近くでそれを傍観していた順平は荒ぶる腹筋と格闘しつつ、「頑張れよ」とこっそり耳打ちをすれば、目にも止まらぬ速さでボディーブローをお見舞いされ屍となった。

そこへゆかりに何かを吹き込まれた名無しさんに「あ、有里くん」と声をかけられ、今起きたと言わんばかりの顔で起き上がる。

「… 何?」

「うん、あのね…この間はありがとう」

「もう大丈夫なの?」

「この通り元気です」

確かに登校して早々にハグをかまされた挙げ句、パンツ何色?などと聞かれ殴ったな、と思い出す。

そんないつも通りの名無しさんに戻ったはずだが、今の彼女には見受けられない。スカートの裾をギュッと握り締め、視線を宙に泳がせている。

こんな乙女、僕は知らない。湊は心の中で呟いた。

「そ、それでね、有里くんにお礼
したくて」

「うん」

「わ、わわわ 私と、で、でででデートしてください!」

「何でどもってんのよアンタは!」

「だ、だって正攻法とか緊張するんだもん!」

すかさずゆかりに突っ込まれ、名無しさんはあわあわと焦る。

どんだけ変態的行動に慣れてるん だ、と小さく溜め息をついたが。

「…いいよ」

「へ?」

「デート、するんだろ?」

「いいの!?」

「名字さんが変態行動しないなら」

「し、しない!」

ならいいよ、と言えば目を輝かせ大喜びする名無しさん。

どうして僕にそこまで、という疑問はしまっておくことにした。

「聞きました奥さん」、「デートなんて青春だな」 などとほざいてた順平といつの間にかいたクラスメートの友近にはアッパーをお見舞いして、小さく溜め息をついたのだった。

(デート、いつにする?)

(…いつでも)

(じゃあ来週の日曜日!)

(はいはい)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ