有里湊幸せ計画
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その日、湊はとてつもなく嫌な予感がしていた。
「名無しさんと連絡が取れないの」
寮でゆかりに告げられたのは昨日の夜のこと。試しにメールを送ってみたが、いつも光の速さで送られてくるはずの返信はない。
また無理でもして倒れたんじゃないか、ふとそんな不安が過ぎったが彼女は元気そうだったと首を振る。
「寝てるだけじゃない?」
普通に学校にも来てたし、と言えば納得したのかそうね、と笑みを浮かべた。
心配ない。そうタカを括っていた湊は自身の言葉を後悔することになる。
『タルタロスに一人迷い込んだ方 がいます。貴方にとって特別な方 かと』
「…え?」
ベルベットルームの住人であるエリザベスから連絡が来たのは、今朝のこと。特別ってなんだ、一体誰のことを言っている?
ぐるぐると巡る思考 の中、一瞬だけ名無しさんが浮かんで首を振った。
(彼女じゃない)
そんなことあるはずがない。必死にそう思い込んでみたものの、鳥海から出た言葉に一気に現実に引き戻された。
「名字さんが無断欠席なんだけど誰か知らない?」
問い掛けに答える生徒は誰一人なく、おかしいわねーと鳥海が呟く。同時に不安が押し寄せた。
(…まさか、本当に)
タルタロスに迷い込んだのか?だとしたら一体何故。いくら考えても混乱した頭では答えにたどり着かない。
ふと顔を上げれば、ゆかりと順平も不安げな目でこちらを見ていることに気づき、ぐ、と拳に力が入った。
―――
「…ダメ、繋がらない」
ホームルームが終わったあとすぐにゆかりが名無しさんの携帯に電話をかけたものの、やはり出ないらしい。力なく首を振って、うなだれた。
「な、なあ、名無しさんッチ具合悪くて連絡出来ないだけじゃねーのかよ?」
「名無しさんが今まで無断で休んだことないでしょ!?」
「けどこ ないだぶっ倒れたばっかじゃねーか!」
「…二人とも落ち着いて」
今にも喧嘩になりそうな雰囲気の 二人を宥めるが、どうやら逆効果 だったらしく怒りの矛先は湊に向 けられた。
「有里くんは何でそんなに落ち着いていられるワケ…?」
「名無しさんッチが心配じゃ、」
「心配に決まってるだろ!」
思わず荒げた声に、二人は目を丸くして固まった。
「心配だけど、状況がわからない」
何よりタルタロスは影時間じゃなきゃ現れない。そう心の中で呟いて奥歯をギリ、と噛み締めた。
「とりあえず名字さんを見かけた人がい ないか、放課後調べよう」
もしかしたら思い過ごしかもしれない。そんな僅かな期待を込めて提案した考えに、二人は頷いたのだった。