有里湊幸せ計画

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名無しさんを見つけ抱き締めること数分、ぷるぷると震える彼女が声を発した。

「あ、あの、有里くん…わ、私そろそろ限界が…」

その言葉にハッと我に返った湊はすぐさま体を離し、うなだれた。

「…ごめん。キツいなら僕の背中に乗って」

「い、いや、体力的じゃなくてハート的な問題が…」

真っ赤な顔で気絶するかも、と名無しさんが呟いた時だった。

『有里くん、気をつけて!すぐ近くにシャドウの反応が…!』

「え…?……っ!」

「有里くん!!」

――それは、ほんの一瞬だった。

背後から襲ってき たシャドウに傷を負わされ、倒れ込む湊、名無しさんの目の前に現れるシャドウ。

つい先ほどまで追われていた恐怖が蘇り、逃げることはおろか、立ち上がることすら出来ない。

『有里くん!しっかりして!』

湊の通信機から聞こえる声にふと視線を向ければ、一筋の血が流れていることに気が付き、 名無しさんは目を見開いた。

(このままじゃ、有里くんが死んじゃう…!)

いくら人並み以上の運動神経があったところで、体の震えは止まらず、まして戦えもしない。

(一体どうしたら、)

そこまで考 えたところで、コツ、と何かが手に当たる感触がした名無しさんは、もう一度視線を落とす。

「…… 銃…?」

床に転がる、一丁の銃。こんなもので、目の前の黒い化け物に太刀打ち出来るのか。

一瞬考え、すぐに首を横に振る。

(…考えてる暇はない)

震える足を叱咤し、ぐっと力を込めて立ち上がると彼女は覚悟した。

(有里くんを、守らなきゃ)

こんな訳のわからない場所に来て、必死に私を探してくれたから。

湊の銃――召喚器を握り締め、まるで初めから使い方を知っているかのように銃口を己の頭へ向ける。

そして、ゆっくりと呟いた。

【――ペ、ル、ソ、ナ。】

瞬間、鳴り響く銃声と共に姿を現したのは、湊が最初に召喚器したオルフェウス。

「……ペル、ソナ…?」

どうやら意識を取り戻したらしい湊が呆然と見ていると、 名無しさんはほんの僅かの笑顔を向け、攻撃の合図を送った。

迫り来るシャドウをあっという間に切り裂き、暴走することもなく消えたと同時に、今度は彼女が力無くその場に倒れ込む。

「っ… 名字さん!」

慌てて抱き留め声をかけるが、召喚による疲労と肉体・精神的ダメージによってそのまま意識を手放したようだ。

「名無しさん!」

「名無しさんッチ!」

そこへようやく合流出来た他のメンバーが駆け付けてきたのを確認し、ゆっくりと名無しさんを背負う。

「有里、名無しさんは無事なの か!?」

「無事、だと思います」

「ていうか有里くんも怪我…!」

「…今のはペルソナ、か?」

「…とりあえず名字さんを寮に運ぼう」

自身の怪我も顧みず、美鶴の問い掛けにも答えずに、足早にその場を去る湊。その後ろ姿を、他のメンバーは不安げに見つめることしか出来なかった。

(彼女の両親は、無気力症で)

(…なのに、 何で)

「ペルソナまで…っ」

湊の微かな呟きは、タルタロスの闇に呑まれた。



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