有里湊幸せ計画
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真っ暗闇の中にさ迷う私の前に現 れた不思議な空間。扉をそっと開 ければ、鼻の長い老人と、やけに 顔の整った男女二人がそこにい た。
「ん…」
「…起きた?」
「あれ…有里くん…?」
目を開ければ、心配そうにこちらを窺う様子の湊に、まだ意識がはっきりしない名無しさんは2、3度まばたきを繰り返す。
ここは何処だろう。ぼんやりとそんなことを考えていると、読み取ったかのように「僕の部屋」と言葉を発され、一気に少女は覚醒した。
「あ、あああ有里くんの部屋…!!」
息を荒げスーハーと湊の枕の匂いを嗅ぎ始める奇行にいつもなら拳骨の一つでもお見舞いされるはずが、今日はそれがない。
疑問に思った名無しさんが恐る恐る湊を見れば、悲しそうな、それでいてどこか安心したような表情をしていた事に気付いた。
「…有里くん、どうかしたの?」
「あんな目に遭ったのに、君は…」
「え?」
「…傷、まだ痛む?」
「傷?」
ふと視線を落とせば、自身の腕に巻かれた包帯が目に映り、同時にあの時の記憶が甦った。
「…そういえば私、変なところに迷い込んで…それで有里くんが助けに…」
「……やっぱり、覚えてるんだ」
――彼女までペルソナ能力に目覚めてしまった。
その事実を目の当たりにした湊はギリ、と奥歯を噛み締めた。
「有里くん、ありがとね」
「…え?」
突然言われた感謝の言葉に思わず顔を上げれば、それはもう嬉しそうに笑う名無しさんが目に映る。
「あの時、有里くんが助けに来てくれて嬉しかった」
「でも、君は」
「確かに変なところに迷い込ん で、変なのに追われて怪我しちゃったけど、有里くんが自分を 責める必要ないよ?」
いつも迷惑かけてばっかりの私を助けてくれた。それがすごく、ものすごく嬉しかったんだ。
屈託のない笑顔でそう言った名無しさんに何も言えず、湊は無言で小さな体を抱き締めた。
「あ、有里くん、やっぱりなんか大胆過ぎて…」
勘違いしちゃうよ、と赤面した名無しさんが呟いた時だった。
「名無しさん…!」
「ちょ、センパイ押したら…っ」
「じ、順平くん、声が…!」
「やば…!」
扉の向こうから聞こえてきた声に、ゆらりと立ち上がった湊が勢いよく開ければ。
「…順平、何やってるの?」
「み、湊サン」
なだれ込んできたのは順平にはじまり、ゆかりや風花、真田までもが揃っていた。
それぞれがゆっくりと顔を上げれば、般若のような形相をした湊が目に映り、背筋に冷たいものが走った。
「盗み聞きとか、死にたいの?」
「いや、名無しさんッチの様子が気になって来てみたら、なんか甘い雰囲気が…」
「今なら高レベルのペルソナ召喚出来そうだけど」
「何でオレだけ!?湊サン目がマジすぎんだけど!」
「死ね」
「ちょ、ま、ギャァァァア…!!」
分寮中に順平の断末魔が響く中、難を逃れた他のメンバー が名無しさんの元へ向かう。
「もうバカ名無しさん!心配したんだから!」
「名字さん、大丈夫?あ、私隣のクラスの…」
「名無しさん、怪我の具合はどうだ」
顔馴染みから初対面まで、それぞれ己の身を案じてくれたことに嬉しさを隠せない名無しさんは、満面の笑みを浮かべながら受け答えするのだった。
(…真田先輩、近すぎです)
(な!?俺は名無しさんが心配で…!)
(ああなりたいんですか)
(ヤバい!有里くんの目がマジだ…!)
(あ、有里くん落ち着いて…)