有里湊幸せ計画
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「やあ、君が名字くんだね?」
「…はあ」
ニコニコと笑いながら話しかけてくる男――理事長こと幾月に、名無しさんはいつもより固い表情で挨拶を交わす。
学校では分け隔てなく話す印象を 持っていた湊は思わず目を丸くしたが、今はそんな場合ではないと判断し、二人の話に耳を傾けた。
「君はどうやらここにいるメンバーと同じくペルソナ能力に目覚めたみたいだけど…何故夜に学校へ行ったんだい?」
それは誰もが抱いていた疑問だった。何故彼女は夜の学校へ赴いたのか。
固唾を飲む中、名無しさんはゆっくり口を開いた。
「…宿題を忘れちゃって」
「……え?」
「ぶっ」
「はぁぁあ!?」
幾月が聞き返したあと順平が吹き出し、ゆかりが大声を上げる。他のメンバーはと言うと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で呆けていた。
「アンタそんな理由で学校に行ったの!?夜はタルタロスになるのに!」
「そんな理由って酷いよ!大体夜の学校がそんなものになるなんて知らなかったし…」
寄りによって忘れた宿題が最悪な先生のだし、と呟いた 名無しさんの言葉に堪えきれなくなった順平が大声を出して笑っ た。
「いやー、さすが 名無しさんッチだな!」
「笑い事じゃないでしょ順平!」
「…しかし名字は0時前に学校に忍び込んだのか?」
「いえ、23時過ぎだったんですけど…警備員さんに見つかりそうになって…」
隠れてたらあんな時間になっちゃいました。眉を下げて笑う名無しさんにフツ、と怒りがこみあげてきた湊は、思わず両手で彼女の頬を引っ張った。
「い、痛いよ有里くん!ほっぺた伸びる…!!」
「笑い事じゃないだろ」
「え…」
「運よく怪我で済んだけど、もしかしたらあのまま殺されてたかもしれないんだ」
「う…」
ごめんなさい。俯いて小さく呟いた名無しさんに少しキツかったかもしれないと思い直した湊は、くしゃりと頭を撫でた。
「…話が少し逸れてしまったけど、名字くん。君に頼みがある」
「…何ですか?」
「桐条くんから大体の話は聞いてると思うが、ここのメンバーは皆ペルソナ使いであり、シャドウを倒すべく行動している」
「回りくどい言い方は好きじゃありません」
「…そうだね、なら単刀直入に言おう。仲間になって欲しいんだ」
彼等と共にシャドウを倒してほしい。幾月の言葉に俯いたかと思うと、今度は真っ直ぐに見据え、名無しさんは答えた。
「…それで私の両親が戻るなら、シャドウでも何でも倒します」
その言葉に幾月は安堵の笑みを浮かべたが、事情を知っている湊とゆかりは複雑な表情で俯くしかなかった。
「じゃあ早速入寮の準備にかかろうか」
「入寮、ですか?」
「お前も今日からペルソナ使いだ。これからは私達と共にここで過ごしてもらうことになる」
「それって…もう一人でご飯食べなくていいってこと、ですか…?」
「…そんなとこ」
湊の言葉にみるみる笑顔になっていくのを見たメンバーは不思議に思ったが、嬉しそうに笑う名無しさんに何も言うことなく、つられて笑みを浮かべる。
――ただ一人、湊を除いて。