絶望的なこの世界で。
□素質
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* * *
「オウリ、それじゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
母さんは、全ての荷物を馬車に運び終わると、私にそう言った。
「それではミネルバさん、オウリを宜しくお願いします」
「あぁ、分かったよ」
そこまで言った母さんの目に、みるみる涙が溜まっていく。
ウォール・シーナまで出稼ぎに行ったら、暫くは会えない。
でも、泣くほどのことではないのに…何故?
最後に母さんはギュッと私を抱きしめてこう言った。
「体には気をつけて、ミネルバさんの言うことちゃんと聞くのよ。愛してるわ…じゃあね」
「うん…?」
様子がおかしかった。
愛してる、なんて普段全然言わなかったのに。
「おい、何グスグズしてる。
もう出発するぞ」
「すみません」
馬車からガラの悪そうな男の人が顔を出した時、少し不安になった。
ミネルバさんが、男から貰ったものを大切そうに抱えているのを横目に見ながら…
私は遠ざかる馬車を見送る。
…母さんを見たのは、これが最後だった。