絶望的なこの世界で。

□入団
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「…以上のことを、どうかそれぞれの胸に手を当てて検討してほしい。
人類のために、心臓を捧げることが出来るか否か。
入団希望者は、この場に残ってくれ」

調査兵団団長、エルヴィン・スミス。
その立ち振る舞いは三年前とは違い、洗練された力強さを感じさせる。

調査兵団の新兵勧誘式。
最終的にこの式典で、兵士は自分の配属兵科を決める。

簡単に言ってしまうと、団長がどのような演説をするかで、入団希望数が決まる。

調査兵団は常に人員不足だ。
普通の人間なら、出来る限り不都合なことは伏せて、勧誘演説をするだろう。

しかし、エルヴィン・スミスは違った。


『最初の壁外遠征で、入団希望者のおよそ5割が死亡する』

いきなりの爆弾発言。
途端、周りがザワザワとうるさくなった。

なるほど、より優れていて、意思の強い兵士をこれで選別するつもりか。



ゾロゾロとその場を後にする同期たち。右を見ても左を見ても、その数は変わらなかった。


そして…


「君たちは、死ねと言われれば死ねるのか?」
『…死にたくありません!!!』


調査兵団の決まり問答をした後、感慨深げにエルヴィンが頷く。

「ここに残ってくれた全ての者に敬意を払おう。
君たちはたった今から、勇敢な調査兵団の兵士だ」

エルヴィンの隣にいる上官の一人が敬礼!と叫んだ。


『…はっ!!!』


一斉に拳を左胸に当てる。
その数、およそ45名。


エルヴィンが入団希望者の一人一人に声をかけている。

私の前まで来ると、驚いたような素振りを見せた。

「…あれ以来だな、オウリ。
まさか君が調査兵団に残ってくれるとは思わなかった」


あれ以来、とは助けてもらった二年前のあの日をさすのだろう。
まさか、彼が私の事を覚えてくれているとは思っていなかった。

「…ご無沙汰しております、エルヴィン団長。その節は、本当にありがとうございました」


あの時は見れなかった彼の目を、しっかりと見つめ返す。


「…少し変わったな、君は。
いや、成長したとでも言うべきか」

「…はい?」


「いや、気にしないでくれ。
君の実力は、教官達から何度も聞いている。期待しているぞ」
「はっ!」



再度敬礼した。
101期の調査兵団は僅か45名。

今すぐ隣で敬礼している同期達は、三ヶ月後に控える壁外遠征が終われば死んでいるかもしれない。



ふと隣を見ると、昨夜会ったペトラがいた。
零れそうな程涙を溜めた、その瞳と目が合う。

私に気付いて引きつった笑みを浮かべる彼女を見て…やれるだけのことはやろう、そう思えた。
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