蒼風と紅

□第二話
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・・・

11年前・・・






偉大なる航路のとある海域。
一隻の船が佇んでいた。
乗っていたのは一人の少年。
銀髪に蒼い眼をした美少年であった。


「・・・そろそろ船が限界だな・・・」


少年の乗った船はボロボロで、あと数回航海をしたら壊れてしまいそうなほどだった。


「・・・次の島で買うか・・・」


少年は次の島へと進路を向ける。










偉大なる航路 【プリーステス国】
別名 「巫女の国」


この国は特異能力を持った人物が稀に生まれる。
決して悪魔の実の能力ではない、生まれた時からの能力。
この能力を持った者は「巫女」として、国民の上に立つ。










「大巫女様!大巫女様!」


この国の長とも言える人物、大巫女のもとに従者の一人が駆け込んでくる。


「何事?騒々しいわよ・・・」


大巫女は呆れたように微笑み、従者に答える。


「それが、島の近くに見知らぬ船が!」


それを聞くと大巫女は驚いたように目を見開くが、すぐに憂いを含んだ表情で微笑み、


「そう・・・来たのね・・・」


そう呟いた。


「?・・・大巫女様?」


従者が不思議そうな顔をするが、大巫女は立ち上がると、


「どうせまた、抜け出したんでしょう、あの子・・・
 案内して・・・」


そう言って部屋を出た。










その頃、村では・・・


「姫様!何処ですか!?」


「勝手に巫女社を抜け出さないでくださいませ!」


大巫女の従者であろう者たちが必死に一人の少女を探していた。


「また姫さんが脱走したのかい?」


「ハハハ、よくやるもんだ・・・」


住人達は日常茶飯事なのか笑いながら見守っている。










「・・・ちょっとくらい抜け出してもいいじゃない・・・」


一人の少女が人気のない海岸に座っていた。
歳は7歳くらいだろうか。
纏う衣服が上等なものだということから、高い位の者だという事が分かる。


「・・・いいなぁ・・・海・・・」


少女がそう呟き海を見ていると・・・


「・・・ん?」


遠くから一隻の船が近づいてくる。


「・・・見たことない船・・・貿易船でもないみたいだし・・・」


船には同い年くらいの少年が一人乗っていた。
船を岸につけ少年はこちらに近づいてくる。


「・・・この島の者か・・・?」


透き通った声で問いかけてくる少年に少女は目を奪われた。


銀色の美しい髪に宝石のような蒼い瞳、彫刻のように整った顔、全てが美しかった。


「・・・?・・・おい」


返事を返さない少女に少年は不思議そうな顔をする。
少年の声に少女は我に返り、小さく頷いた。


「・・・船を買いたいんだが・・・
 どこに行けば買える・・・?」


少年の問いに少女は立ち上がり、砂を払うと、


「・・・こっち・・・」


少年の手を引き、歩き始めた。
突然の行動に驚く少年だが、振り払おうともせず、黙ってついて行っている。





「・・・あなた、名前は?」


「・・・レイだ・・・お前は?」


「・・・私は姫巫女」


「・・・それはお前の本当の名か?」


「・・・・・・」


姫巫女は黙って首を振る。


「・・・この国では、名前は意味ないわ・・・」


姫巫女は悲しそうに言う。


「・・・あなた、海賊なの・・・?」


「・・・いや、旅をしている・・・」


「子供なのに・・・?」


なめているのか、と眉間に皺を寄せるレイだが、


「・・・すごいね・・・かっこいい・・・」


微笑む姫巫女に唖然とする。


「・・・いいなぁ、海・・・」


小さく呟く姫巫女に、


「・・・海に出たいのか・・・?」


そうレイは訊く。
レイの問いに姫巫女は困ったように微笑み、


「・・・私は巫女だから・・・ここから出られないの・・・」


巫女は上に立つもの。
巫女として国民の象徴にならねばならない。
生まれてから息絶える瞬間まで巫女として生きなければならない。


「・・・・・・」


姫巫女の小さな背中をレイはジッと見つめる。










村の入口に着くと・・・


「姫様!どこにいらっしゃったのですか!」


従者の一人が駆け寄ってくる。


「ゲッ・・・見つかった・・・」


嫌そうな顔をする姫巫女に、


「・・・お前、姫なのか・・・?」


レイが驚いたように訊いてくる。


「?・・・その者は・・・?」


従者がレイの存在に気づき、声をかける。
姫巫女がレイを紹介しようと口を開いたとき・・・





「姫巫女」



凛とした、美しい声がその場に響いた。


「お、大巫女様!」


そこに現れたのは、美しい女性。
上質な衣服を身につけており、そばには従者もいる。


「・・・お母様・・・」



「また御子社を抜け出したのね・・・」


大巫女は呆れたように言う。


「・・・だって・・・」


姫巫女はバツが悪そうに目をそらす。


「ハア・・・」


仕方がないという風にため息をつくと、レイ
の方を見て、


「あなたは、旅の方かしら・・・?」


優しく微笑み問いかける。


「・・・はい、レイといいます
 船を買いたいのですが・・・」


レイの返答に大巫女は困ったように言う。


「ごめんなさい・・・ここは滅多に船を使わなくて・・・
 新しく造ることになるから、少なくとも三週間はかかるわ」


「・・・そうですか・・・」


レイの無表情が困ったような顔になる。


「それまで巫女社にいるといいわ」


大巫女の言葉に従者が慌て出す。


「何を仰るのですか!大巫女様!」


「巫女社は神聖な場、そう易々と巫女以外の者を入れることなどできません!」


「え〜・・・いいじゃな〜い・・・」


「「「なりません!」」」


「・・・あの、そこまでお世話になるわには・・・」


大巫女と従者の言い争いに若干引きながらもレイは言う。


「・・・行こ・・・」


再びレイの手を引いて姫巫女は歩き出す。


「・・・何処にだ?」


「巫女社」


不思議そうに訊いてくるレイに姫巫女は当然のように言う。


「・・・海の話、聞かせて?」


「「「姫様!」」」


「ほら〜姫もこう言ってるしいいじゃな〜い」


さっ、昼餉の準備よ!、といい巫女社に帰っていく大巫女に従者は揃って溜息を吐いた。


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