小説[リクエスト]

□キスから始まる夜は長い
2ページ/5ページ

「ジュビア、グレイ様に嫌われてしまったのでしょうか…?」

どんよりとした空気を纏いながら、ジュビアがあたし達に涙目でそう訴えてきたのは、グレイが早朝から1人で仕事に行った日の午前中だった。

「えっ?」
「いや、全然そんなふうに見えないけど」
「寧ろ溺愛してない?」
「うんうん、今やジュビアよりもグレイの方が好きオーラ出してるっていうか…」
ひとつのテーブルに集まってお喋りで盛り上がっていたあたし達は、自然にその説を否定する。

「どうかしたのか?ジュビア」
その中の1人、エルザが、まるで姉のような優しい顔と声でジュビアを手招きした。
手招きされたそこへ、ジュビアはすとんと収まった。


「………………」
「一体どうしたのよ?」
「話してごらんよ、ん?」
俯いて黙ってるジュビアに、あたしがそう声をかければ、カナも同じように聞く。
リサーナもレビィちゃんも、真剣な面持ちで耳を傾けている。

意を決したようにジュビアが顔を上げた。
そして今にも泣き出しそうな顔でポツポツと話し出す。

「グレイ様とお付き合いし始めて2ヶ月程になるんですけど、最近、冷たくなったというか…な、何もしてくれないというか…」
顔をほんのり赤らめながら涙目で訴えるジュビアは、何というかあたしから見ても可愛くて、ジュビアにそんな顔をさせているグレイのことを急に憎らしく思い心の中で舌打ちをした。

「何もしてくれない、とは?」
「チューとか?」
エルザとカナが続けてそう言えば、ジュビアはしゅんとうなだれた。
「ち、チューだなんて、一回もしたことない、です…まだ、手も握ってくれないですので」
「………うそ、マジ?」
「デートは?」

「それなら、しますよ。映画館とか水族館とか、ショッピングや、お家デートなんかも」
変わらず赤い顔で、ジュビアは照れくさそうにそう言う。

「自宅デートしといて何もせず、かぁ」
リサーナがそう呟けば、あたしも含めた皆が言葉に詰まった。


「それなら僕に任せてよ」
「ジュビア、心配する必要ないと思うけどなぁ?」
沈黙を破ったのはふたつの明るい声。
ミラさんと共にニコニコしている、またしても勝手に出てきた契約済みの星霊を軽く睨みつけながら、2人の後に続く言葉を全員で待つのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ