小説[リクエスト]

□君との未来は虹色であると願う
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誰もが目を奪われるような美しい青い髪と端正な顔、色白で華奢な体を合わせ持った少女ジュビアは、げんなりしていた。

夏本番の季節になりつつある最近の気温はゆうに30℃を超える。
今は日も落ち暗くなってきた時刻ということもありそれほどは暑くはないが、満員電車はいまだに蒸し風呂のような状態だ。
なるべく端の方への移動に成功すると、ジュビアはハアと一息ついた。

(…あれ?)

ふと、自分の臀部を這いずり回るゴツゴツした手の気持ち悪い感触に気付く。
横目でちらりと見てみれば、中年のサラリーマン風の男がぴたりと寄り添い、こちらを見ていた。

(…どうしよう)
心臓がばくばくと鼓動を早めた。
唇が乾き、視界が滲みそうになる。

(…ちょっとあの人に似てる…こわい…)
ふるふると体が震えだし、手すりにぎゅっと両手でしがみついた。
(…やっぱり、ガジルくんを、待ってれば良かった、な)


「なにしてんだ?」
後悔の念が頭をよぎったとき、静かな車内にそんな声が響いた。
スカートの中にまで侵入していたその手は、ぱっと離れていった。
ジュビアが振り向くとそこには、黒髪で長身の青年が険しい顔で立っている。
一度見たら忘れられないような整った顔立ちで、タレ目がちなその瞳はとても印象的だ。

「い、いやっ、これは…」
「今、あんたその子の尻触ってたよな?どんだけお盛んなんだよ」
そう言って青年は、サラリーマンの手を捻り上げた。

「痛っ」
「黙れ変態、大人しくしろや」
「……くそっ」
次に停車する駅まで、その正義感あふれる青年は痴漢の腕を掴みながら、痴漢と自分の間に立ってくれていた。
駅に到着し、駅員に痴漢を預け渡すと青年は気をつけろよ、とだけ言って立ち去ろうとする。

「あ、あの…っ」
人見知りが激しい自分を奮い立たせて、ジュビアはなるべく大きな声でその青年を呼び止めた。


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ようやく課題を片づけて時計を見やると、すでに夜7時をまわっていた。
夏に近づいた今の時期は、真っ暗とまではいかず薄暗くなり始めていた。
ふぅ、と一息つき、簡単に帰り支度を終わらせ駅へと足早に向かう。
腹減ったな、と腹部をさすり、夕飯どうすっかな、とぼーっと考えながら満員電車に自分の体を押し込む。

ふと、目の前に青が飛び込んでくる。
その青色の持ち主である少女は、人混みにウンザリしたように息を吐いていた。

(この制服…)
自分が卒業したばかりの高校の制服を着ている少女に、グレイはしばし目を奪われた。

突然、目の前の少女の顔が強張った気がした。みるみるうちに涙目になり、小さく震え出す。
少女の目線を追えば、中年オヤジが鼻息荒くミニスカートの中にまで手を伸ばしかけたところだった。

被害に遭っているのは見ず知らずの少女だったが、グレイは何故か頭の線が切れそうな程イラついて、怒気を含ませいつもより低い声色を出す。

「なにしてんだ?」

「い、いやっ、これは…」
慌てたオヤジが弁解しようとするのをピシャリと止めてやる。
「今、あんたその子の尻触ってたよな?どんだけお盛んなんだよ」
そう言って手を捻り上げてやれば「痛っ」と顔を歪めた。
「黙れ変態、大人しくしろや」
凄みをきかせて手に力を込めると、オヤジは舌打ちだけして抵抗をやめた。

さっきの少女が気になりちらりと見やれば、いまだに小刻みに震えているのが目に入った。
少しでもマシになれば、と少女から痴漢オヤジが見えないように間に立ってやる。
駅員に痴漢を受け渡し、幾分落ち着きを取り戻した少女に、気をつけろよ、と言って背を向けると、背後から自分を呼び止める弱々しい声が聞こえた。


振り向けば、顔を赤く染めた少女が、いっぱいいっぱいといったふうにこちらを上目遣いで見つめている。

そのとき、何とも言い表しがたいが、心がザワザワとざわめくような未知の感覚にグレイは襲われた。



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