小説[リクエスト]

□Triangle Love
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先ほどの嵐のような暴雨は、多少は収まった。
自分の腕の中で気を失ったように眠っている少女が号泣するのを止めたからであろう。やはり何とも不思議な魔力である。

額に張り付いた前髪から顔へと流れてくる水を少し煩わしく思い、リオンは無造作にかきあげた。

「来るのが、遅いな」

そう言って背後を振り返れば、同じく全身ずぶ濡れになった弟弟子が肩で息をしながら立っていた。

「なんで、お前が…っ」
全身を滴る雨など気にもしない様子で、ぎりっと奥歯を噛みしめたグレイがこちらに一歩近付いた。

「必死で探し回ってやっと辿り着いた、という感じだな」
「うるせー、悪いか」
「悪いな」

じろり、とリオンはグレイを睨みつける。
「お前という奴は、一体何度ジュビアを泣かせたら気が済むのだ」
「…、お前には関係ないだろ」
「まあ、確かにな。俺は、何があったのかも知らん」
ふん、と鼻を鳴らしながら、やれやれとでも言うようにリオンは首を振った。

「もう良いだろ、そいつを返してくれ」
「…これは驚いた。まるで自分の所有物のような口利きだな」
弟弟子の口から飛び出した言葉に、リオンは軽く目を見張った。

「俺のだ。返せ」
今にも掴みかかりそうな勢いで、グレイの眼光が鋭いものに変わる。

「…そこまで独占的があってジュビアを想っているなら、なぜ、これほど泣かせるようなことをするんだ」
一体何をしたのだ、と語尾に付け足しておく。

一呼吸置いて、ぽつぽつとグレイが話し出した。
「……、こいつ、今回の仕事もまた俺を庇いやがった。あれほどやめろって言ってんのに」
「…そうか」
「左の脇腹、すげー怪我なんだよ」
「なるほどな。どうりで身体が少し熱を持っているわけだ」
「治療後に目ェ覚ましたらすぐ、俺に怪我がないか案じてきやがったから…、つい、怒鳴っちまった」
そこまで話すとグレイは深く溜め息をついた。

「それで嫌われたと思って此処で大泣きしていたという訳か」
「……、返してくれ」
「全くお前は、昔から本当に出来の悪い弟弟子だ」
「…そうかもな」
珍しくしおらしい態度を見せたグレイに驚き、リオンは再び目を見張った。

普段ならば更に嫌味のひとつでも付け足すところだが、今は到底そんな気分にも成れず素直にジュビアを手渡した。


「巻き込んで悪かったな、リオン」
如何せん覇気の無い顔のまま口角をクッと上げてそう言うと、グレイはジュビアを抱きすくめながら雨の中リオンに背を向けて歩き出す。

「素直になれ、グレイ」
その背に向けて慌ててそう告げた。
「お前がもう少しだけ素直にジュビアに接すれば、物事は瞬く間に進展するというのに」

相手が、ジュビアの言うところの“恋敵”であるということなど今この瞬間は頭から消え去っていた。
自分がジュビアを好いていることに変わりはない。
そのジュビアがひたむきに愛しているグレイが邪魔者だというのも同様だ。
しかし、いがみ合っているはずの弟弟子が大切だというのもまた事実。
自分にとって彼は、たった1人この世に残された“家族”なのだから。
自分の愛する女性と、自分の大切な家族が、同時に幸せになれるのだと言うのなら、この2人の恋路を密かに応援するのも悪くない。
最近はそんな戯言を思う日もある。

「そうかもな」
グレイの発した小さな返事は雨音にかき消されて兄弟子まで届いたかはわからない。


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