小説[リクエスト]

□出産育児奮闘記3
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うっすらと目を開けると、見覚えのない真っ白な天井が見えた。

(あ、れ…?ここは…)

ぼんやりとしながら、そっと腹部を触ってみる。
おかしい、怪しい、と思っていたけれど、やはり自分の勘は当たっているようだった。

(きっと、いるんだ。…グレイ様の子が、ここに)

そう心の中で呟くと、じんわりと胸が熱くなるのを感じた。
大好きな人の子を身籠もることが出来た…なんて幸福なんだろう。

(…あ。ルーシィ)

ふと、倒れる直前の記憶が舞い戻ってきた。焦ったような困ったようなルーシィの泣き顔。

ゆっくりと頭を動かして周囲を見渡す。
そこでようやく、じっと自分を見つめる漆黒の髪と目に気付いた。

「ぐ、グレイ様…なんで」
慌てて発した声は掠れ気味。
ぱっと身を起こそうとしたジュビアを、グレイは制した。

「……、なんで、黙ってた?」
少しの沈黙のあと、普段より幾分低い声でグレイが尋ねた。
「え、と…お医者様は何て…?」
不機嫌なのがすぐ見て取れる夫を、おずおずと見上げながらジュビアは質問を返す。

「……妊娠。16週だと」

ーー妊娠。
にんしん、あかちゃん。

「あ、…やっぱり」
ポツリと呟いたのを聞き逃さなかったグレイが、つかつかと歩み寄ってジュビアの右手首を半ば乱暴に掴んだ。

「お前は…っ!何でそんな大事なこと俺に言わなかった?!」
「あっ、…ちゃんと確かめて、からと思って」
久々に見る夫の怒り顔にジュビアは怯み、語尾はどんどん小さく萎んでいった。
「……っ、ちゃんと、言ってくれよ。ここに来るまで、俺が、どんだけ心配したか」
ふと手首を掴む力が弱まり、グレイは俯いて震えながらそう呟いた。
「ご、ごめんなさい…」

ジュビアの手に、一滴の涙が落ち、じわっと染みていく。
「グレイ、さま…あの、本当にごめんなさい…」
想定外の夫の涙を目の当たりにして、ひどく動揺したジュビアが自身も涙を浮かべながら何度も謝る。

「…っ、ごめん、なさい…」
とうとう本格的に泣き出したジュビアをちらりと確認すると、そのまますっぽりと抱き締めた。

「…俺さ、すげぇ怒ってるからな」
「う、…はい…っ」
「謝ったって、許せねぇ」
「ごめん、なさい…」
「俺に黙ってたのと、すげぇ心配させた罰として、お前は子供がある程度でかくなるまで仕事禁止」
「はい…っ、…え?」
しゃくりあげて泣いていたジュビアが、目をぱちくりと見開いてグレイを見つめた。
「お前は確実に無理するからな。いいか、絶対守れよ」
「で、でも、明日ちょっとした仕事の予約が入ってます」
「内容は?」
「え、と…確か、少し離れた街の漁港に、何匹も海の魔物が出るそうで…。ガジルくんと討伐に」
「却下。奴なら一人で充分だ」
さらっと答えるジュビアの言葉を食い気味で遮り、抱き締めたままの腕にグッと力を込める。
「つーか、さ。お前、結婚してもまだガジルと危険な仕事行くのかよ」
「え?はい、討伐系はやっぱり報酬が良いですし…ガジルくんと仕事でペアを組めるのはジュビアくらいですから…」
「………やめだ」
「え?」
「ガジルとは俺がペアを組んでやる」
「ええっ?!」
「だからお前は家、…いや、1人で何かあったら困るから、ギルドでミラちゃん達と俺を待ってろ」
「ぐ、グレイ様、そこまでは…」
「無理。そうしてくれねぇと、お前が気になって俺の仕事が出来ねえ」
「う。…はい」
それでいい、と言わんばかりにぽすぽすとグレイはジュビアの頭を撫でた。


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