GIANT KILLING

□私の頭の中
1ページ/1ページ



朝、通勤ラッシュよりも少し早目に電車に乗る。
電車内は、人がまばらに座っていて、新聞を広げて読んでいるサラリーマンや、朝が早い運動部員の学生など、いろいろだ。
都会の朝のラッシュは、死ぬんじゃないかと言いたいぐらいぎゅうぎゅうに、人がたくさん乗ってくる。
あの人込みは、東京に住み始めて数年経った今でも、未だに慣れない。


「(どうせ私は、田舎者ですよーだ)」


なんて意味もない悪態をつきながら、私はETUのクラブハウスへと向かう。






「おはようございまーす」


事務所へと入ると、作業する後藤さんがいた。
いつもながら早い出勤に、私は今まで後藤さんより早く出勤した覚えがない。
いつも何時に来てるんだろ?そう疑問に思いながら、なんだかんだと聞けないで今日にいたる。


「お、今日も早いね。洸ちゃん」
「後藤さんには負けますよ」
「そんなことはないよ」


そう言って笑ってるけど、誰よりも早くここに来て、仕事に取り組む後藤さんは、ETUへの情熱がとても強い人なんだと、窺える。
この人のこういう姿を見ていると、なんだか負けられないって思う。


「あ、そう言えば後藤さん」
「ん?」
「達海さんから、今日なにするか聞いてますか?」
「……」
「…何も聞かされてないんですね」


何か聞かされてるんだったら、手伝おうと思ったけど、一瞬、顔が強張った後藤さんを見て、私も顔が強張る。


「肝心の達海は、まだ夢の世界だし、ぎりぎりまで分からないな」
「なんか達海さんらしいですね」
「ホントだね。昔のままだよ、あいつは。」


はぁ…と深く溜息を吐く姿に苦笑いを漏らす。
達海さんは、当時から後藤さんを振り回すような場面を何度か見た事がるから、久々の再会でもう早速、疲れが出ている。
何処までも自分を貫き通せるって、凄いと思うけど、それのおかげで周りの人が振り回されるって、自覚しているんだろうか。
いや自覚してないから、そうなるのかな。


「(本当にどうするんだろう…後藤さんが知らないって事は、何か良い考えがあるのかなぁ)」


うーんと考えていると「おはよー!」と元気なあいさつが聞こえた。


「おはよう、有美ちゃん。朝から元気だね」
「へへー!今日はなんたって、達海さんの初日だからね!元気にもなるよ!」
「有美ちゃんが一番楽しみにしてたもんね」
「それは洸ちゃんもでしょーが。」
「うん、まぁね」


なんてはしゃぐ私ですが、実は私の方が、有美ちゃんよりもお姉さんなんです(前、若手選手に言ったら、驚いてた。なんで?)
有美ちゃんと私の両親が、友人同士と言う事もあって、幼い頃から良く遊んでたんだ。
だから、達海さんの事も一緒に応援してたから、いろいろと意気投合しちゃったんだよね。


「(どんなゲームを考えてくれるのか、ホント楽しみだなぁ)」


達海さんが帰ってくるって分かってからワクワクが止まらない。



「(そういえば政先輩…大丈夫かな。連絡がないけど…何か起こさなければいいけど、心配になってきた)」


数日前の政先輩と話し終えた後、別れちゃったけど…あの人の事だから、サポーターの皆と抗議に来るかもしれない。
もし乱闘になったら…いやいや!そんなことしないじゃん!政先輩達は!あんなこわもてだけども!
サッカーを、ETUを、愛してやまない人たちだ。
そんな事はないと信じている。






と思ったはいいけど、なんか不安だ。








私の頭の中
(不安でグルグルだぁ)
(え?何かあったのかい?)
(いやこっちの話ですから、気にしないで下さい)
(そうかい?)
(洸ちゃん、選手皆のユニホーム新しく来たから、確認してくれない?)
(はぁい)





END...
そんなこんなで、広報のお仕事開始です。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ