GIANT KILLING

□頑張れる理由は、君にある。
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「あ、杉江さん、おはようございます」


朝、クラブハウスへ到着すると、洸ちゃんが、何やら大きな段ボールの前で作業をしていた。


「おはよう。洸ちゃん、何してるの?」
「これはですね、みなさんの新しいユニホームです」


ようやく来たんですよ、とふにゃり笑う姿に思わず、俺もつられて笑う。


「そっか、もうボロボロだもんね」
「はい。特に世良君のユニホームがボロボロなんで、一枚多く頼んでるんですよ。なんでそうなるか不思議ですけど。」
「ははっ。いつも体当たりでやってるからね、世良は。」
「怪我したら元も子もないのに…夏木さんみたいになったらどうするんですかね」


もう!と怒る洸ちゃん。
確かに、そうなれば今季の試合が全ておじゃんになる可能性があるんだ。
その気持ちも分からんでもない。


「まぁ、夏木の怪我はある意味自業自得だしね」
「それは言えてます…我慢できずにって言うのも、夏木さんらしいですしね」


なんて会話をしているうちに、洸ちゃんの作業が終わったみたいで、段ボールを抱える体制に、俺は制した。


「俺が運ぶよ。ロッカールームでいいのかな?」
「え?わ、私が運びますよ!」
「遠慮しないでよ。俺がしたくて、やるんだから」
「うう、でも…」
「そんなに、俺が頼りなく見えるかな?」


あわあわと慌てる洸ちゃんに、わざと哀しそうに言えば、「とんでもないです!杉江さんは頼れる人です!」と、ぶんぶんと顔と手を横に振るう姿に、思わず噴き出して笑ってしまった。


「わ、笑わないで下さいよ!!」
「ははっ!ごめんごめん。あんまりにも反応が可愛くって、思わずね」
「うーー…可愛いって何ですか、もう…」


顔を真っ赤にして、狼狽える洸ちゃん。
こんな反応があるから、ついつい意地悪してしまう。


「そういえば洸ちゃんって、本当に朝早いよね」
「そうですか?」
「うん。毎日こうやって頑張ってる洸ちゃんは、凄いえらいなって思って。」


きょとっとしたと思えば、照れたような笑みを浮かべた。


「後藤さんにも、似たような事を言われたんですよ」
「え、そうなの?」
「はい。普通だと思うんだけど…わぷっ!」


ぼすんっ!
前を見てなかった洸ちゃんと、ロッカールームから出てきた人物が、ぶつかってしまった。


「…しっかり前を見て歩け、洸」
「す、すみません。村越さん」
「次からは、気を付けろよ」


鼻を擦りながら謝る洸ちゃんに、越さんはふっと笑い頭を撫でる姿は、良く見る光景だ。
でも、あんな優しい笑みは、もちろん俺達、選手の前では見せた事はない。


「(それは洸ちゃんと、奥さんだけだろうな)」


越さんからしたら、洸ちゃんは妹の様な存在で、きっとあんな優しい顔になるんだろうな。


「(こうさせる洸ちゃんって、本当に凄いとしか言いようがない)」


いつも難しい顔をして近寄りがたい雰囲気を持っているが、洸ちゃんの前だとそれはないみたいだ。それはもう不思議なほどに。

談笑が終わったのか、越さんは何処かへと行ってしまった。


「杉江さん、段ボールすいません」
「ん…気にしないで。」
「いえいえ。本当に助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまいして」


抱えていた段ボールをロッカールームに置くと、洸ちゃんが早速、箱からユニホームを選手ごとに分けていく。
それにならいながら、俺もやろうと手を伸ばす。


「す、杉江さん!それはマネージャーの仕事ですから、ここまでで…!」
「ここまで運んだから、手伝うよ」
「杉江さん…」


少し驚く洸ちゃんだったが、少し申し訳なさそうに「お願いしますね」と言ってくれた。


「(本当に頑張り屋さんだなぁ…)」


ここにやってきた頃からずっと、そうだ。
とっても真面目で、頑張り屋さんなんだけれども、どこか危なっかしくて、こっちが心配になる事もあるけど(たまに、目上の人だろうが、しっかり意見がいる姿には、ヒヤヒヤさせられるけどね)
洸ちゃんは知らないだろうけど、そんな姿に、俺は勇気をもらってる。
毎日こうやって頑張れてるのは、彼女のおかげだ。


「(あの日、偶然にも見た姿に、俺は惹かれたんだ)」







楽しそうに走る姿に、俺は惹かれたんだ―――…。










頑張れる理由は、君にある。
「ちーすっ!」
「世良、新しいユニホームが来たよ」
「え!?マジっすか!!?」
「洸ちゃんに感謝しなよ。一枚多く頼んでくれたみたいだから。」
「えええ!?な、なんだか罪悪感が…」
「たく、ここは金がねぇんだから、ホイホイ破るんじゃねぞ!世良ぁ!!」
「ひ、ひぃ!すいません、黒さん!」
「…お前だって似たようなもんでしょ」
「……それを言うな、杉」





END...

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