GIANT KILLING

□不穏な空気
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「ははっ、おめでとう。君達は、レギュラー候補組だ」





そう宣言する新監督の考えは、紙一重である、と私は思った。
表舞台では、裏切り者とレッテルを貼られていて、十年たった今でも、その傷跡は残っている。
ETUサポーターからは殺意とも取れる行動や態度。
そして、キャプテンである村越さん。
この人も、また達海さんを許さないでいる。
憎しみから来るものではなく、ETUを裏切った達海さんが、ただ許せないんだ。


そんな達海さんは、周りの事なんて気にとめず、と言うよりも楽しんでるかのように見える。
こんなに嫌われるんだったら、私、絶対いやだな。
他のチームの監督さんは、選手に嫌われてでも、徹底的にやる人もいるけど、サーポーター達まで嫌われたら、私だったら泣いてると思う。



「(それでもなお、何かしようとしてるんだろうか)」





達海さんには達海さんの考えがあるのだから、心配しててもきりがないんだろうけど…いつか、衝突していざこざが起こらないか、心配になってしまう。





『村越さんも心配…と言いたいのね、洸ちゃんは。』
「はい、そうなんです」
『うーん…洸ちゃんの気持ちは、分からないでもないけど、あの人ってとても堅物じゃない?』
「堅物って、結衣さん…」


電話越しに聞こえる呆れたような溜息に私は苦笑い。
堅物と言うか、真面目と言うか…何でもしょい込む節はある人だって分かってるし、それを手助けできない自分が歯がゆい。


『洸ちゃん、それは本人の問題よ』
「問題…?」
『そう。村越さん自身が、今後どうするのか、その達海監督がどう動くのか、ただ見守るしかないのよ』
「……」
『ふふ。洸ちゃんに愛されて、村越さんは幸せ者ね』
「え?いやいや、ただ心配なだけですよ」


そうね、そんな話聞かされると、元広報の私も心配だわ。と溢す結衣さん。
結衣さんは、こう見えて昔はETUの広報だったのだ。それはそれはもう優秀な方で、仕事をこなすスピードは凄く早かったんだから。
でも、今ではある人との結婚を機に、引退しちゃったんだ。
この凄腕の先輩とは、一緒に仕事できたのは、たったの一年だけ。
もっと一緒に仕事したかったなぁ。


『あら?旦那が、帰って来たわ』
「あ、本当ですか?それじゃここで切りますね」


と言った所で、結衣さんの旦那さんの声が聞こえた。


『ただいま…て、電話中だったのか』
『うん。洸ちゃんからよ』
『洸?なんでまた、』
『ふふ、女の子同士の話よ。聞くなんて、野暮ってものでしょ?』
『…洸ならまだしも、お前が女の子って、どうなんよ』


あ、なんだかヤバイ雰囲気だ。
どうしよう…


『あら、そんなこと言っちゃうの?あなた、夕飯の時は覚悟しなさいよ』
『……………』


……ごめんなさい、ここで切らさせていただきます。









不穏な空気
「洸、もう上がったぞ。入れ」
「はぁい」
「そういやぁ誰に電話してたんだ?」
「うん?堺さんの奥さん」
「堺…?堺ってETUの選手か」
「はい、そうですよ」
「何年か前に結婚してたんだったな」
「うん、今じゃあすっかり奥さんに尻に引かれてますよ。あの堺さんが。」
「そんなイメージねぇなぁ」
「ふふ。でも雅先輩は、尻に引かれるイメージですね!」
「………………」



すでに、洸に引かれてる気がしないでもない、と思った羽田であった。
洸の無邪気な笑顔に、ただただ黙るしかできなかった。





end
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