GIANT KILLING

□そうさせてるのは、貴方だ
1ページ/1ページ






「え!?有里ちゃんが倒れた!?」


バタバタと慌ただしくやってきた世良くんからの口から衝撃的な言葉に、私は驚いた(上半身裸の世良くんは、いつもの事なので驚かないけど。)
慌てて医務室に向かう。


「あ、先生!有里ちゃんが倒れったって聞いたんですけど…!」
「静かにしなさい、慌てたって何もいい事無いわよ」
「す、すいません…」


ETUの専属の先生に、怒られてしまい、すやすや眠る有里ちゃんをチラリと見て、起きてない事に安堵する。


「有里の奴、働きすぎなんだよ」


ホッとして束の間、聞きなれた声に振り向いた。


「そんな事言うなって、達海。有里ちゃん、ETUの為に頑張ってるんだから。」
「あ、監督、後藤さん」


後藤さんに怒られながらもスルーする達海さんに、思わず苦笑いが出てしまった。
あいも変わらずな二人だなって。
十年と言う穴なんて、無かったぐらいに、後藤さんは達海さんに、もう振り回されている。


「(有美ちゃんも散々振り回されているしなぁ)」


それもって言う訳ではないけど、有里ちゃんは毎日、ETUの為に走り回っている。
小さい頃から、ETUを見て育って、チームの苦しさを分かっている。私なんかよりも、きっと。


「て、達海さん、何してるんですか?」
「んー?何って、アイス食ってんの」
「…目的ってそれですか」
「うん」


一瞬沈黙が流れたのち、後藤さんに叩かれた達海さん。
痛いと文句を垂れていたが、達海さんの事だから、照れて言動に出さないんだと思う。


「お、生きてた」
「そりゃ生きてますよ!変なこと言わないで下さいよ」
「有里ちゃん、大丈夫か?」


ぱちりと目を覚ました有里ちゃん。
ひょっこり顔を覗かす達海さんに、驚きを隠せなかったのか、騒ぎ立て始めたけれど、また仕事に戻ろうとする有里ちゃんに、先生が一喝する。


「ダメよ!」
「え、」
「今日は帰って休みなさい。今すぐ!」
「え、でも、もう大丈夫…」
「そいう問題じゃないのよ。倒れたあなたが働いていたら、皆が心配してかえって迷惑になるのよ」
「………そんな…」


先生の厳しい言葉に、有里ちゃんは今にも泣きそうで、ショックを受けたような表情だ。


「うん。無理せず帰んな、有里ちゃん」
「そうだよ。また倒れちゃったら、私、悲しいよ」
「でも、洸ちゃん、」
「でもじゃないでしょうが、お馬鹿」
「洸の言う通りよ、早く帰りなさい」
「う、うう…」


しょんぼり。
皆に散々言われて、しょげる姿に、私も後藤さんも苦笑い。
それじゃあ荷物まとめて帰ります…と呟いて、医務室を出ていった。
それを見届けた先生はぐちぐち文句を言いながら、有里ちゃんの後をついて行った。


「んー…それじゃ仕事に戻りますね」
「ああ、洸ちゃんも無理するなよ」
「分かってますよ。ね、監督」


いつまで冷蔵庫にすがってるんですか。
そう言ってグイッと引っ張る。
不満そうな顔をされたが、気にしない。
あー…こんな調子じゃあ心配してなさそうだな。
有里ちゃんじゃなくて、この人がぶっ倒れたらよかったのに。


「…洸ちゃん、なんか失礼な事、考えてない?」
「だったら、どうなんですか」
「ぅわぁ…強気な発言ね」






そうさせてるのは、貴方だ。

「あ!洸さん!」
「世良くん…と、ドリさん」
「有里ちゃん、どうだった?」
「貧血で、倒れたみたい。でも、先生に怒られて、大人しく帰りましたよ」
「そっかぁ…良かったス!いきなり目の前で倒れるもんスから、ビックリしたっス」
「ああ、あんなこと今まで無かったからな」
「(こんなにも心配してもらってるんだから、しっかり休まないといけなくなったね。有里ちゃん)」




身体を動かすだけが、仕事じゃあない。
休む事も、仕事のうちだよ。ね?



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ