きみとみる世界
□“王”との遭遇
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(やっぱり、知ってる…。)
ほぼ正面から至近距離で見た顔は、ルーナの記憶に引っ掛かっていた。
喉元辺りまで出掛かっている記憶を必死に手繰り寄せていると、急に右手手首を掴まれた。
『なっ、』
「すまないシャンデラ。キミのトレーナーにひどいことをするつもりはないよ。だから怒らないでくれるかい?」
ティアの言葉を遮り、青年はルーナのブレスレットをじっと眺める。
薄桃色の、透き通るような真珠のブレスレット。
ルーナがまだシンオウに暮らしていたとき、神秘的な現象に遭い手に入れたものだ。
そしてルーナは、このブレスレットが一体何なのかの見当はついている。
推論の域は出ていないけれど、これは他の人の手に渡らせてはいけないという事だけは判る。
掴まれた腕に力を入れ、逃れようと身を引く。
「…この地方にはいないトモダチの声がする…。」
ぽつりと、青年が呟いて顔を上げる。
何か、信じられないという目をしながら、同時にルーナに対し希望を抱いたような、そんな雰囲気の表情。
ルーナは青年の言葉に更に身を固くした。
「キミは…」
「十万ボルト!」
青年の声を遮って、後方からよく知った声が聞こえると同時に、青年のすぐ横に落ちた電気。
手が緩まったその瞬間、ティアは素早くサイコキネシスでルーナを移動させた。
『今回ダケは助かりまシタ、ピカチュウ。』
「ぴーかぴか!」
ピカチュウとティアがルーナを庇うように前に出る。
青年はまたも、目を見開いていた。
「…おい。ルーナに何をした。」
いつもより一オクターブ低い声が、耳を打つ。
「…レッド…。」
今自分の横に立っているその声の持ち主を見上げると、彼は真っ直ぐに青年を睨み付けていた。
赤の両目に、燃えるように激しくも、静かな光が宿っている。
「彼女のポケモンの声を聞かせてもらっていた。
そうしたら、彼女に興味がわいたんだ。」
しかし青年にはまったく怯えた様子がない。
すっくと立ち上がり、レッドの眼を正面から見つめ返していた。
「興味?」
レッドの表情が更に険しくなる。さりげなく、ルーナを守るように腕を広げる。
「そう。そのブレスレットは、間違いなく他の地方のトモダチのものだ。
僕の目的を達成するため、彼女が欲しい。」
「えっ…!?」
いきなり何を言い出すんだろう、この人は。
それに彼が言っている『他の地方のトモダチ』とは、ルーナが思い付く限り一つしかない。
しかしそこに辿り着くこの青年は、何者なのか。
ぎゅっとブレスレットを握り締め、ルーナも青年を見据えた。
「あなたが何を目的としているのかは分からないけど、私はあなたのような人に、力なんて貸したくない。
他を当たって。」
「そうかい…でも僕は、キミしかいないと思ってる。
もしキミが僕に協力してくれるなら――キミを、僕の妃にしてもいい。」
(――妃!?)
「ふざけっ…」
「ふざけんな。」
ゆらり。
レッドがゆっくりと一歩を踏み出す。
あまりの威圧感に困惑するティアとピカチュウの間を進み、青年の胸ぐらが掴めそうな距離で、立ち止まる。
「ルーナは、お前にだけは絶対に渡さない。」
強い風が吹く。
吹き抜ける風が、ルーナの、レッドの、青年の髪を揺らす。
「手厳しいね、キミは一体誰だい?」
「答える義理はない。」
青年の問いかけをずっぱりと切り捨てるレッド。
二人は睨み合ったまま、動かない。
一瞬のような、永遠のような。
そんな不思議な時間が流れる空間に、およそ場違いな声が響いた。