きみとみる世界

□心傷。
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頭から思いっきり水を被る。寒い、冷たい。
だがこれで消えろ、煩悩め。

――ルーナが可愛くて仕方ない。

しかも相部屋。つまりは見ようと思えばルーナの寝顔が見れる。
初めて会った時は悪夢にうなされていたけれど、今日は違う。
むしろ今日またうなされたなら何としても叩き起こす。
というかなんださっきの仕草は。
枕にぐりぐりする姿とか、まるでイーブイあたりの小型ポケモンが甘えているようだった。
ルーナに甘えられたい、すっごく。

だけどポケモン達に甘えられてるルーナもいい。
普段は何と言うか、保護欲が掻き立てられるというか、そんな感じなのに、あの慈愛に満ちた笑顔とのギャップが。

今まで女になんて興味を惹かれたことがなかったが、ルーナは別だ。
可愛い、料理も美味い、そのうえバトルも強い。
それに、癒される(ここ重要)。
最後にもう一度水を被って、黒のシャツとズボンに着替え浴室を出る。

ルーナ、と呼び掛けるが返事がない。
うつ伏せに寝ているルーナの顔を覗き込むと、果たして彼女は眠っていた。枕を抱いて安らかに寝息を立てているルーナは、予想通り可愛い。
何故か自分のピカチュウが傍らに丸くなっているけど。

「ルーナ、ルーナ。」

ゆさゆさゆさ。

返事はない、ただ単に熟睡中のようだ。
今度は頬をつついてみる。
くすぐったそうに動くものの、うにゅ〜 だの むぅ〜 だのかわいらしい声でうめくだけで、全く目を覚ます気配がない。

さて、どうしようか。

自分のベッドに腰掛け考えようとすると、手の下に何か固いものがあった。
手に取ってみると、それはポケギア。通話機能、マップ表示機能、さらにカメラ機能まで搭載された優れもの。
通話機能はさておいて、カメラ機能にはつい先日世話になった。
メリープのもこもこの中心で笑うルーナの写真を見て、つい微笑ましくなると共に激しい自己嫌悪が襲ってくる。

これただの盗撮だよ、何やってんだよ過去の僕。
犯罪だろ、立派な!

そんな真実は露と知らず、ルーナはすーすー眠ってる。
そしてそっと近付いてポケギアを構える自分。
ああもう、本当最低だな。だが後悔はしまい。
ボタンを押してから、揺り起こすとしよう、そうしよう。

ピリリリリッ!

「!!?」

ボタンを押そうとしたその瞬間、突然にポケギアが鳴き出した。
驚きのあまりポケギアを落としそうになったが何とか受け止めて、画面の表示を見ればグリーンの名前。

ある意味グッドタイミング、だが次会ったら ぶ っ 潰 す。

「うにゅ〜、…んむぅ…?」

着信音が煩かったのか、ルーナがうっすらと目を開いた。くしくしと目を擦り、ポケギアの画面を睨んでいる僕をぼんやりと見上げる。あ、上目遣いかわいい。

「…でんわ、はやくでてあげないと。わたしおふろはいるから、きにしないで〜…。」

寝ぼけているのか何時にも増してふわふわしている。
鞄とモンスターボールを持ってベッドから立ち上がるが、何だか足元がおぼつかない。

転ばないだろうかと思いつつ、喧しく音を立て続けるポケギアの通話ボタンを押す。

『おいこらレッドおぉお!!!てめー小まめに連絡しろっつったろおがぁ!!!!』

スピーカー越しの突然な大音量の怒声。
何となく予想はできたけど、まだ三日しか経ってないよ。なんでそんなに怒るんだ。
ルーナもびっくりしてドアに手をかけたまま固まってるし。

「煩いグリーン、黙れ。」

『はあ!?お前が連絡して来ねーからわざわざ電話してやったのに、んだよその言い草!
人の親切をどう心得る。』

「頼んでないし、親切だとも思わない。」

『んだと?!』

僕を見る目がはらはらとしたものに変わっていくルーナ。
グリーンの話をスルーして大丈夫だとジェスチャーして見せると、こくんと頷いてドアを開ける。
だが、

「ぅわぁっ」

ドアの敷居に思いっきり躓いて、清々しい程きれいに転んでしまった。
どたーんっ という音とルーナの声はスピーカーの向こうにも聞こえたらしく、グリーンの怒鳴り声がピタリと止む。

 
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