きみとみる世界
□さがしもの
2ページ/2ページ
そしてそれを知ったとたん、この男に軽蔑の念が生まれた。
「夢の跡地ではルーナを妃にすると言っていた奴が、新米トレーナーにまで手を出すとはな。」
「ぴかぴか!!」
ピカチュウがバチバチと電気を鳴らし、僕の手は無意識に帽子の鍔へと動く。
トウコがルーナさんにも!?とNを見、Nはピカチュウを見て悲しげに笑った気がした。
「ここでバトルかい?トモダチを傷付ける行為は気が進まないけど、キミのポケモンの声を聞きたい。」
投げられたボールから、砂漠で嫌というほど相手をしたメグロコが姿を現す。
トウコが何か言おうと口を開く前に、僕は指差しピカチュウに指示を出した。
「ピカチュウ、アイアンテール。」
「メグロコ、砂地獄だ!」
Nもメグロコに指示を出したが、僕達とはレベルも経験も桁が違う。
成すすべなく、メグロコは倒れた。
‡‡‡‡‡‡‡
「ボルテッカー。」
「ああっ、トモダチ!」
Nの最後のポケモンが倒れた。
なんだ、意外とあっけない。
これならピカチュウじゃなくてもクルマユで十分だ。ボルテッカーはまあ、フィニッシュだし。
シンボラーと呼んでいた鳥ポケモンをボールに戻して、Nは困惑したように僕とトウコを交互に見る。
まるで、今まで自分の信じていたものを否定されたかのような。
「何故だ…キミのピカチュウもだ!
ピカチュウも、キミの事を“ダイスキ”と言った。
トウコのミジュマルも、ルーナのシャンデラも、トレーナーを“スキ”と。“マモル”とも!…解らない、僕には解らない…。」
突然にNは叫びだし、その場に膝をつく。
トウコも驚いたように屈みこんで、Nの様子を窺っている。
「ピカチュウ。」
「ぴいかー。」
足下に戻ってきたピカチュウを抱き上げて、僕はNに近付いた。一体こいつはどんなポケモンに触れてきたんだろう。
トレーナーを好きだというポケモンが、まるでピカチュウたちだけみたいじゃないか。
「…お前がどんなポケモンに会ってきたか知らないけど。」
Nがゆっくりと顔を上げる。
その目にははっきりと迷いの色が見てとれた。
「ポケモンがトレーナーを“スキ”でなかったら、今頃ポケモントレーナーなんていないよ。」
ポケモンには程度に差はあれ知能がある。性格も個性も、自我だってある。
たとえゲットされたとしても、トレーナーが気に入らなければ言うことを聞かないし、その前にボールにさえ入らない。
どうしてそんな当たり前のことに、Nは気付かないのだろう。
「ルーナを捜さなきゃ。」
先程のバトルにはかなりの野次馬がやって来たが、その中にルーナはいなかった。
どこかで待っているのならば、早く迎えに行ってあげないといけない。
「トウコは来なくていい。」
暗にNの側に居てやれと言うと、トウコはコクッと頷いてNに寄り添った。
「早くルーナさん、見つけてあげて下さいよ。」
トウコの言葉を背に、僕はもう一度駆け出した。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡
人を抜けて、ジムの前。
漸くルーナを見つけた。
両手を握って膝に置き、彼女は俯いてベンチに座っていた。
長い髪が横顔にかかって表情は見づらいが、なんだかルーナの周りだけ、時間が止まっているかのよう。
何となく声を掛けるのが躊躇われて、しばらく様子を見ていると、彼女の目から、何かが落ちた事に気が付いた。
一つだけでなく、二つ、三つと、光りなら落ちていくそれは、間違いなく――
(…涙…?)
気が付いたら僕は走り出していて、ルーナの手を掴んでいた。
驚いて顔を上げたルーナの目から、滴が飛ぶ。
「ルーナ…やっと見つけた。」
「レッド…!」
嬉しそうに、安心したように、ルーナは僕の名前を呼ぶ。
けれどもそれは一瞬のこと。
自分の頬に流れる涙を、僕から隠すように大慌てで拭い始めた。
「ごめん…っ、その、ね。ずっと観覧車見てたら、目、乾燥しちゃって…。
ここにずっと待ってた訳じゃないし、怖かったとかじゃないから、気に、しないで。」
涙を拭い終えたルーナは、いつものように笑って見せる。
笑って見せたけれども、その笑顔はどこかぎこちなかった。
「ルーナ。」
「な、何?」
ビクリと肩を震わせてルーナは僕の言葉を待つ。
怖々としているルーナの頭を撫でて、そっと手を差しのべた。
「今日はもう、帰ろう。」
「えっ!?でもレッド、ジム戦は?!」
「人がたくさんいて疲れた。もう休む。…ただし、ルーナ。」
ただし、明日は目一杯、僕に付き合うこと。
僕から離れたら、許さない。
もう、あんな感覚は御免だ。
「…うん、私も…もうはぐれたくないよ。」
ルーナの手が僕の手に重なる。
ベンチから立ち上がって、ルーナはようやく自然に笑ってくれた。
「…見付けてくれてありがとう、レッド。」
――――――――
実はNトコ大好きだったりします。
次はジム戦終えてサブウェイ!!