きみとみる世界
□プロローグ
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―技が鮮やかに決められた。
ピカチュウがしなやかに着地し、赤い頬から電気の火花を散らすのと同時に、ガブリアスの大きな体が倒れた。
ガブリアスのトレーナーは、信じられないという目をし、次いで相棒に駆け寄った。
うっすらと目を開けた、傷だらけのガブリアスを撫でながら、何かを言うトレーナー。
『…はやく、ポケモンセンターに』
すっ、と横から手が伸びてきて、ピカチュウを肩に乗せたバトルの勝者が、トレーナーに何かを手渡す。
手渡された物を見たトレーナーはぎょっとしたように目を見開き、相手を見ると、恐る恐るそれを受け取った。
やがてガブリアスをボールに戻し、飛行タイプのポケモンを出すと、そのポケモンに渡された物を与え、その場を去っていった。
きっと、げんきのかたまりか何かだろう。
瀕死の状態でも、そらをとぶやなみのりといったひでん技をポケモンは使う事ができる。
しかし、やはり体力の無い状態で長時間飛んだり泳いだりは辛いのである。
トレーナーが去った後、赤いトレーナーはピカチュウを連れて、大きな石の上に腰を下ろす。
だいぶ使い古されたリュックからキズぐすりを取り出して、ピカチュウの回復を始める。
時折、染みるのかぷるりと体を震わせるピカチュウの手当てを続ける少年の目は、どこか、哀しげだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「…、また、あの夢…。」
枕元の目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、私は目を醒ました。
ぱちんと目覚まし時計の頭を叩いて音を止めると、まだ眠たい体を起こす。
窓に掛けられたカーテンの隙間から伸びる光の糸をぼんやりと眺めて、その裾を捲る。
薄雲のかかった浅黄色の空と、その空を飛び交うマメパト達。
とても、さわやかな朝だ。
身支度を整えながら、先ほどの夢を思い出す。
私は、時々変な夢を見る。
自分が知らない風景、人が、何気ない日常を過ごしている夢。
そしてそれは、どこかで現実に起こっていたことだと、不思議と判る夢だった。
ただの夢と言ってしまえばそれまでだが、何故かそう確信がある。
そして今しがた見た夢も、その類いだ。
しかし、あのピカチュウの動きはただ者ではなかった。
あのスピード、そして電撃のパワー。
とてもあの小さな体から引き出されるものとは思えない。
見た目は自分とあまり変わらないようだったが、あの赤いトレーナーは余程の凄腕らしい。
(バトルしてみたい。)
久々に抱く感情。
胸の奥からわくわくが止まらない。
あのトレーナーが実在するのなら、本気でバトルができるかもしれない。
「ルーナー!ご飯食べるわよ、はやくポケモン達と起きてきなさーい。」
「はーい、ちょっと待って〜」
階段下からお母さんが呼びかける。
慌ててシャツに袖を通し、枕元のホルダーに連なっているモンスターボールを持って階段を駆け降りた。