きみとみる世界

□眠らずして見た夢
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小さな女の子が泣いている。
ぼろぼろと涙を溢しながら、女の子は荒れた町で泣いていた。
側では一人の男の子が怒っている。
でも、女の子に対する怒りじゃない。

『ちくしょう!なんでだ、なんでだよ!!』

男の子は地面に座り込んで、何度も何度も、地に拳を打ち付けている。

『なんで妹のチョロネコがっ…あんな奴らなんかにとられなきゃならないんだよ!!』

可愛がっていたポケモンが、誰かに奪われちゃったの?

『力が…。』

男の子が泣きじゃくりながら、横で泣く女の子を抱き寄せる。

『おれに力があれば…!』

……!

『強くなりたい!』

つよ、く…。



強さって何だろう?

力があること? 勇気があること? どんな状況になっても、諦めないこと?

だったら、私は何?

バトルは滅多なことじゃ負けないし、旅の途中あちこちに危険な場所があったけど、怖がって避けた事はない。
まだ新米トレーナーだったとき…今だって、何かを諦めようとは思ったことなんてない。

『私』は強い…?

〈じゃあ、何かって何?〉

―誰、誰なの

〈言ってみせて?〉

―…ポケモン達と、バトルに勝つこと。
たとえ無茶なバトルでも、諦めなかったから勝てた。

〈ふーん。まあ、それはいいや。〉

―何が言いたいの、あなたは

〈確かに、きみは諦めちゃいない。
でもね、きみは諦めてないんじゃなくて、

何も、期待してないの間違いなんだよ。〉

―ちがう。私にだって、夢くらいあって、何かに期待する心だってある。
変なこと言わないで。

〈いいや、きみは手を伸ばすことをしてないだけなのさ。〉

―ちがう。

〈きみは自分から、再び旅に出ることもしなかった。
夢があるんなら、飛び出せる筈だったんじゃないか。〉

―ちがう。

〈何がちがうんだい?
だってそうじゃないか。〉

―嫌…言わないで…

〈だって、今のきみの性格も仕草も夢も言葉も、全部きみが意図的に造りあげたものだろう?〉

―ちがう! 造ってなんてない!
これが普通の私、私なの!!

〈そうだよねえ。だって、『本当の』きみのままだったら、みんなの嫌われ者になっちゃうからねえ。
独りは辛いもんね。分かる分かる。
ああでも、友だちはいないまんまみたいだね。必死に努力したのに、可哀想に。〉

―いい加減にして。本当に…あなたは一体何がしたいの!!

〈え?そんなの決まってるじゃないか。〉

空っぽな君の化けの皮を、剥ぎにきたのさ

―やめてっ…!

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

「ルーナ、ルーナ!」

「りゅう、りゅう!」

「ぴかぴ〜」

「シャル〜!」

「ジバコ…」

『しっかりするのだ、目を覚ませルーナ!』

ルーナが、バトルの最中に突然倒れてしまった。
原因は分からないが、今見るとうなされて、苦しそうに息をしている。
ルーナのポケモン達はいつの間にかボールから出てきていて、ルーナを起こそうと必死だ。

ピカチュウも心配そうに耳を下げている。

氷で少しバランスを崩してしまったピカチュウは、はっきり言って攻撃のチャンスだった。
ルーナもハクリューに指示を与えようとしていけれど、声は途中で不自然に途切れたのを僕は聞いた。
地面にへたりこみ、そして倒れる体…。


とにかく、どこかで休ませないと。
研究所に連れていけぱ、きっと休ませてくれるだろう。
そう思い、ルーナを抱え上げた時だった。

「あのぅ〜、どうしたんですかあ?」

「ちょ、ベル!」

「大丈夫だよチェレン。…その人、どこか悪いんですか?」

後ろから声を掛けられ振り向くと、三人の子どもがそろって僕を見上げていた。
この町の子ども達だろうか。

ベルと呼ばれていた少女が、ルーナの顔色を見てかあっと声を上げる。

「大変!顔が青いよ!
トウコ、トウコの家が一番近いでしょ?
はやくこの人休ませたげないと!」

「うん!うちはこっちです、付いてきて下さい!」

「ボクはあそこでハンカチ濡らしてくるよ!」
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