きみとみる世界

□First contact
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全力を出したオーラの翼なら、カノコタウンからヒオウギシティ間なんて2分30秒で十分。
町に降り立つと、夢で見た男の子が妹を庇うように立って、私を睨みつけてきた。

この町で何があったのか、そんな事はもう夢で解っている。
〈あいつら〉がどこへ行ったのか、この子達に聞いてみよう。
私は〈あいつら〉の仲間ではないと安心させるためにも。

「ねえ、君。ここに、変な服着た人たちが来なかった?」

かがんで男の子と目線を合わせて、聞いてみる。
鋭い赤い目が、それを聞いてさらに鋭くなった。

「お前…誰だよ。あいつらの仲間か!?」

やっぱりか。
この子は感情的みたいだから、落ち着いて話を進めないと。

「うんん、むしろ、“敵”だよ。私は、〈あいつら〉を邪魔する為に来たんだ。」

にこっと笑いかけたけれど、男の子の警戒心は全く薄まらない。
さらに強い口調で、こう責められた。

「邪魔しに来た!?じゃあ何でもっと早く来なかったんだよ!!
もっと早くに来れば、助かったポケモンや人がたくさんいたんだ!!
それに、敵の敵がおれたちの敵じゃないなんて保証はどこにあんだよ!!」

それを聞いて、私はうっ と言葉に詰まった。
保証…。この子はどんな保証を提示すれば納得してくれるだろうか。

でも早くしないと、〈あいつら〉の消息が本当に絶たれてしまう。

「保証は…確かに君が言う通りない。でも、私も、〈あいつら〉が許せない。
私は君たちみたいにポケモンを盗られた訳じゃないけど…っ、お願い、教えて!」

ああ、ダメだなぁ私。
やっぱり普段から他人と喋り慣れてないから、言葉が見付からなくなるのかな。

友だち、欲しいな―

「…あっち。」

女の子の声で顔を上げると、男の子の妹が、町の出入口を指差していた。

「あたしのチョロネコね、あのへんな人たちに、とられちゃった。」

ひっく、としゃくり上げながら女の子は続ける。

「そしたらね、みんなのポケモンさんもとられちゃってね、つぎはあっちだ、ってね、いっちゃったの…。」

「…そいつら、町の名前とか、言ってた?」

念のため聞いてみたが、女の子はわかんない、と消え入りそうな声で言った。

「そっか…。ありがとう、教えてくれて。」

女の子の頭を優しく撫でてあげる。
男の子は、困惑したような目で妹を見ていた。

「サンギ牧場だよ。」

第三者の声がして振り向くと、目の前の男の子よりも少し年下っぽい子が立っている。

「おい、キョウヘイ…。」

「大丈夫、この人、悪い人じゃないよ。だってとってもきれいなウォーグルだもん。」

赤目の男の子の言葉を遮って、キョウヘイと呼ばれた少年は笑う。

「お姉ちゃん、早く行って。思いっきり、邪魔してきてよ。」

この子も、大事にしていたポケモンを盗られたのだろうか。
この少年は夢で見かけた覚えはないから分からないけれど、でも…とても悲しんでいる。

「うん、邪魔してくる。
ありがとうね!」

キョウヘイ君の言う通りだ。
一刻も早く、〈あいつら〉にお灸を据えないと。

待機していたオーラに乗って、サンギ牧場へ一直線。
そうしたら、案の定サンギ牧場のメリープを虐めている変な恰好のやつらが見えた。

間違いなく、夢で見たやつらだ。

――許せない。

「オーラ、急降下して。脅すから。」

『応!』

ゴォッと風の音が耳元で唸り、オーラが集団の真ん中へと突っ込む。
突然の空からの襲来に、うわあっと情けない声を上げる〈あいつら〉。

「なんだお前!!俺たちにケンカ売ろうってか?!」

男が一人、私に向かい罵声を浴びせる。
その声に顔を上げた牧場の主人が、私に気付いた。

「ルーナちゃん!」

「ルーナちゃん、今日からまた旅に出たんじゃ…。」

奥さんも驚いたように口に手を当てる。
その頬には、涙が伝った跡があった。

「ちょっと忘れ物しちゃって、戻ってきたんです。
おばさん、ハーデリア達は!?」
サンギ牧場には、番犬で優秀な二匹のハーデリアがいる。
いつもこの夫婦の近くにいるのだが、見当たらない。

おじさんがちらり、と牧場に停められた大きなトラクターを見る。
車体に大きく描かれているのは、おそらくこいつらのマークだろう。
そして、きっとあの中に奪われたポケモン達が。
つまり、盗られてしまったらしい。

「あら、あんたたちあの小娘の知り合い?」

おじさんとおばさんの近くにいた女性が、じとりと二人を見た。
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