きみとみる世界
□固まる意志
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ヒオウギシティというところに僕達が入ると皆一様に警戒した視線を向けてきたが、腕に抱えていたルーナに気付いた少年が駆け寄ると、その警戒はするっと解かれたようだった。
未だに小さく震えていたルーナだったが、ポケモン達が手元に戻り、再会を喜び合う声にほっとしたようだ。
少しづつ震えが止まって体が自由に動くようになると、慌てて僕の腕から抜け出した。
「もう、平気。ありがとう、ごめんね。」
わたわたと手を動かしながら、地面と僕との間に視線をさ迷わせる。
重かったでしょ、と聞かれたのでむしろ軽かったと答えれば、
「気を遣ってもらわなくても結構です…。」
と 自身の二の腕を見つめながら呟いた。
本当のことなのに。
トラクターに捕らわれていたポケモン達は皆ここのポケモンだったようで、さっきまで無理矢理押し込められていたポケモンはもう中に一匹も残っていない。
けれど、相棒が帰ってこなかった人も少数だけ存在した。
「あたしのチョロネコ…いなかった…。」
ルーナの目の前にやってきて泣きじゃくる少女も、その一人。
ルーナも屈んで少女を抱きしめ、ごめんねと繰り返していた。
「あの…」
声をかけられて振り向くと、そこには無事ポケモン達を取り戻した人々が立っていた。
「この度は、大事なポケモンを助けていただいて…、一体何とお礼を申し上げたらよいか。
本当に、ありがとう…っ!」
ガバッと僕に頭を下げてくる男に、黙ってルーナの事を示す。
僕は後から来ただけで、何もしていない。
一人であの集団と対峙し、倒したのは他でもないルーナだ。
女の子を抱き締めたままのルーナに人が集まり、口々に感謝の言葉を述べていく。
ルーナはそれに笑顔で応えつつも、とても辛そうだった。
「でもお姉ちゃん、無事でよかった。
おれ、お姉ちゃんが乱暴されちゃったらどうしようって…」
「全然良くねえよ!!」
最初にルーナに気が付いてやって来ていた少年の胸ぐらを突然掴み、赤目の少年が怒鳴った。
畏縮した少年を離し、ルーナから女の子を引き剥がすようにして自分の元へと引き寄せると、ルーナを睨み付けた。
「お前っ、あいつらの邪魔しに行ったんだろ?!
それで、皆のポケモンは帰ってきたのに、なんで妹のチョロネコはいないんだよ、おかしいだろ!!」
「…ごめんなさい。」
目を伏せてルーナは言う。
体の横にある手が、強く握り締められ震えているのが見えた。
「ヒュウ、そんな言い方…」
「キョウヘイは黙ってろ!」
完全に頭に血が上っている赤目が、再び少年に怒鳴る。
落ち着いてよ、と言葉を強めたキョウヘイだったが、ヒュウとの取っ組み合いになってしまう。
「ふ、二人とも!」
ルーナが止めに入ろうとするも、もみ合いは止まらない。
レッドが二人を引きはなそうと、一歩踏み出した時だ。
「おにいちゃんやめて!」
ヒュウの動きがぴたりと止まる。声を張り上げたのは、さっきまで泣くじゃくっていた女の子だった。
「おねえちゃん、いっぱいがんばったのに、おこっちゃだめだよ…。」
「……。」
ひっく、とまた泣き始める女の子。
ヒュウは掴んでいたキョウヘイの服を離した。
「…もういい。人なんてもうたよらねえ。
俺の力でチョロネコを取り返す。」
そう言って、ヒュウは妹の手を引いて歩き出す。
「キョウヘイ、ねーちゃん。
…ごめんなさい。」
振り返らぬままヒュウは言って、民家へと入っていった。