きみとみる世界
□守りたいとおもうもの
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ポケモンジムというのはジムリーダーの個性と、ポケモンのタイプがこれでもかという程出るものだが、このジムもまた分かりやすい。
そしてジムの入口に立っている男がおいしい水をくれるのは、どこの地方でも同じなのだろうかと、入ると同時に手渡された缶を眺める。
取りあえずジムトレーナー達を蹴散らしつつ進んで、さっさとジムリーダー倒して戻って寝よう。
しかし…
「ルーナ、最短距離ある?」
「…押していくボタンを間違えないで進むのが最短かなぁ。」
冒頭でも言った通り、ジムの内装というのはジムリーダーの個性や恰好が色濃く出る。
このジムのジムリーダーの頭の中は、さぞ不思議空間なんだろう。
ミツの黄色と床の色濃い紫がミスマッチだ。
早く出たい。
ぶよぶよした壁は普通に歩いて通り抜けようとすると跳ね返されるし、一体どんな材質で出来ているのやら。
中には鉄格子が掛かっていて、仕掛けをクリアしなければ通れない壁もある。
「いつ見てもやっぱりすごいな〜、ヒウンジム。」
後ろから着いてきているルーナが、きょろきょろと辺りを見回しながら感嘆する。
ルーナはこういうのが好きなんだろうか。
「ああ、デザインの好き嫌いとかじゃなくて、独創性が。
アーティーさんは芸術家だから、イッシュのジムの中では一番すごいと思うよ。」
ルーナを見るとこちらの考えを見通したかのようにつらつらと喋る。
黙って顔を前に戻すと、あれ、違ったのかな… と呟く声がした。
トレーナーを十万ボルトの一撃で沈めて床のボタンを踏み押すと、奥に行くのに通らねばならないぶよぶよ壁の鉄格子がようやく外れた。
通り抜けると、目の前の床にはボタンが。
辺りにトレーナーの姿は見えない。
つまりこれはダミーか。
「にゅ…、えいっと!」
ルーナも壁を抜けてやって来た。
しかし抜け出たときに変に勢いがついてしまったらしい。
慣性の法則に則りニ、三歩前に進んだ足が、件のボタンを踏んでしまった。
「ばあっ!!」
「きゃああっ!!」
突然ボタンの正面(すなわちルーナの真正面だ)に現れたのは、クラウン衣装のジムトレーナー。
ルーナは悲鳴を上げ盛大に尻餅をつく。
「あわわわわ…、び、びっくりしたですうぅ…っ」
「はははー、ここまで盛大に驚いてくれると驚かしがいがあるね〜!
さて、目と目があったらバトルの開始…ってひぃ!」
こちらに目を向けたクラウンの笑顔が凍り付いた。
何故だろう、ルーナを涙目にさせたからほんの少し、ほんの少し威圧をかけただけなのに。
ルーナもこちらの顔を見るなり引き吊った笑いを浮かべ、クラウンに言った。
「挑戦者のトレーナーは私じゃないので…、バトルはあの人として下さい…。」
そうじゃない。
まあいい、このクラウンをのせば万事解決。
ルーナはごめんなさいと頭を下げて、僕と位置を交代する。
銀の眼が若干濡れて、いつもより綺麗に見えた。いや、ルーナの目はいつも綺麗だけど。
とりあえず、繰り出されてきたクルマユというポケモンにボルテッカーをお見舞いし、完璧なる十秒バトルが幕を閉じた。