きみとみる世界

□とある空間の惨事
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「……。」

「……。」

「たぶーん?」

可愛らしく小首を傾げるピンクと白のポケモンを前に、二人のトレーナーが、無言で突っ立っていた。

一様に右手に赤白二色のボール、一人は肩にピカチュウ、一人は左隣にハクリュー。

「…、レッド、早く捕まえないと逃げちゃうよ…。」

「…じゃあルーナが投げて。
僕はいい。」

「じっ、実は、タブンネもう捕まえて図鑑に登録されてるんだ〜…。
だからレッドが。」

「それなら見せてくれればいい。データ交換。」

いつの間にか図鑑の取り合いになるトレーナー二人。
タブンネは草むらの向こうへと去ってしまい、ハクリューとピカチュウが各々の主人の奇行を、頭にハテナを浮かべつつ見ていた。

サンギタウンを通過して、ルーナとレッドの希望が一致した先のサンギ牧場へと向かう途中。
揺れる草むらへレッドが興味本意で近付くと、タブンネが飛び出してきた。
二人でボールを取り出して構える、それまではよかったのだ。

だが問題はここからである。
ルーナはごく自然に鞄から取り出した未使用のモンスターボールを見、ふと考える。

(そういえば、手持ちのポケモンをボールに戻すときって、真ん中のボタンの部分を向けると、勝手に入ってくれるよね…。
それはこのボールに入れたポケモンのデータが記憶されているからであって、ゲットするってことはデータを入れることで…あれ?)

ルーナは首を捻る。

(向けただけじゃ入るわけないから、野生のポケモンにボールを投げて、入れるんだよね。
でもただ当たっただけで入るっていうのもおかしくない?)

どんどん思考が余計な方向へと曲がっていく。
なまじ慎重なだけに、深く考え出したら“ま、いっか”とはならないのだ。
そして最終的に、ルーナの考えはここへ行き着いた。

(ボールを投げて、捕まえるポケモンの体でスイッチが入らないとゲット出来ない…!?)

ちらりと隣のレッドを見ると、彼も手でボールを玩んでいた。
まさかポケモントレーナーの基礎中の基礎、というかトレーナーの立つ地面レベルの知識、“ポケモンゲットの仕方”を忘れてしまっただなんて、とても言えない。
誰に向かうわけでもなしに、ルーナは一つ頷く。

(レッドのお手本にしよっと。)

ここからが、一連の行動の始まりである。

ちなみにレッドの方も、

(ルーナの見てよ、やり方忘れた。)

こんな感じだったので、結果、二人してちらちらと互いの様子を窺っていたわけなのである。

((ポケモンの捕まえ方忘れたなんて、迷惑かかるから/カッコ悪いから 言えない…。)

せめてどちらかが素直に言えればよかったのだが、世の中上手くは行かないものだ。

「りゅう!」

「んにゃっ、ど、どしたのハクリュー。」

自分の図鑑を胸に抱いてレッドをかわしていたルーナが、リュカの一声で止まった。
今はボールの中にいるオーラのテレパスラインを通して、ルーナにリュカの声が聞こえてくる。

『どうしたのルーナ。タブンネはまだ捕まえていなかったでしょう?』

「えああ、うん、そうなんだけど…、ま、まだこの先にいるから、いいかなあって。」

『そうかしら? ルーナがそう言うなら。
…助けてあげましょうか。』

「お、お願い…わっ!」

そうこうしていると、レッドの手が図鑑に伸びた。

「…逃げるな。」

「にゃっ、あの本当にお粗末だから!」

「関係ない。姿見るだけでいい。」

端から見たらしつこくセクハラされそうになっている少女と青年の図である。
もしこの場にジュンサーさんが通りかかったら、レッドは取り調べられるに違いない。

リュカはルーナのお願いを受けて優雅に息を吐く。
そして、尻尾でレッドの手の甲をひっぱたいた。

「いつっ」

『手加減はしたわよ。痛かったかしら。』

「ハクリュー、セリフ怖いよ?」

『あらごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのだけど…。』

いつも通りに、おっとりと言うのが余計怖い。
ともあれ、ルーナはレッドから距離を取ることに成功した。

「図鑑は、あと一つバッジとったら見せるから。だからそれまで待って?」

「……。」

レッドは納得が行かないようだったが、バッジ一つなら軽いと考え直したかこくりと頷く。

そしておもむろに取り出すのはリザードンのボール。

「空飛んで今すぐ取るのは無しっ!」

「…ちっ」

ギリギリストップをかけると、レッドは小さく舌打ちをして帽子の鍔を下げた。

 
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