きみとみる世界
□“王”との遭遇
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ぴぴぴっ、と図鑑を回す。
最初から最後まで、綺麗に埋まったデータ。
キチンと幻のポケモン、ミュウとミュウツーのデータも入っている。
ここまで揃っていると、それが当たり前に思えて怖い。
図鑑の持ち主の戦歴がいかに深いか、一目で分かる。
しかしNo.151を越えると、その先はまっっしろ。
ちまちま入っているマメパトやクルマユのデータに違和感を覚える程だ。
ふにゃ〜、と感嘆のため息をついて、とっくに私の図鑑なんて見終わっているレッドへ図鑑を返した。
「すごいね。」
「ルーナもすごい。白すぎて。」
レッドだって似たようなものじゃん。
そういったら、カントーは完璧、とどや顔されてしまった。
ヒウンジムはクリアしたので、シッポウ、サンヨウと僅か一時間足らずでバッジを獲得したレッドと、約束通りの図鑑交換。
データの交換は、レッド側のポケモンがやたら多いのでロードに時間が掛かっている。
私の図鑑ががんばってカントーのポケモンを記憶している間、次のジムの話をする。
「次はライモンシティのジム。ここからヒウンシティと、砂漠を抜けた先にあるの。タイプは…言う?」
「ん。」
「電気タイプ。」
ピカチュウが嬉しそうに鳴いて、パチパチと電気の火花を散らす。
レッドはシッポウジムとサンヨウジムをクルマユで戦っていたから、漸くやってきた出番に張り切っているのだろう。
レッドもピカチュウの頭を撫でて、小さく笑っていた。
「あ、交換終わったみたい。」
画面に完了の文字が点滅したのを見て、それぞれの図鑑を手に取る。
目指すはライモンシティ。
だがその前に、サンヨウシティに隣接する“夢の跡地”でムンナを捕まえておくのがいいだろう。
細い木をオーラのいあいぎりで切り倒し、かつては工場だったらしいコンクリートの壁に囲まれた空間へと入る。
「ほえ〜、草繁ったな〜。」
前回の旅でもルーナはここを訪れたが、その時よりも草むらが生い茂っている。
「あっち見てくる。」
何か興味を引かれるものがあったのか、レッドは右の奥に消えていった。
そう複雑なところではないから、はぐれたままになることは無いだろう。
「ねえキミ。」
「んにゃ、はい、なんですか?」
ムンナはどこかな、と辺りを見渡していたら、不意に声を掛けられた。
返事をして声がした方へと体を向けると、そこには一人の青年が立っている。
白と黒の帽子を被り、胸には不思議な形のペンダント。
そして長い緑の髪。
(…あれ?)
その姿に、ルーナは不思議な感覚を覚える。
どこかで、目の前の青年を見たことがあるような気がするのだ。
以前どこかで会ったのだろうか、思い出そうと頭をフル回転させていると、青年が口を開いた。
「キミのポケモンの声を聞かせてくれないかい?」
「ポケモンの、声?」
早口だな、という感想は脇に追いやり、言われた言葉を反芻する。
どういうことだろう。
(オーラを出せばいいのかな…。でも、オーラのテレパシー知ってて声掛けてきたんだったら、どこで知ったんだろう…?)
「…そんな!」
一人ぐるぐると考えるルーナの事は、青年の方は気に止めていないらしい。
突然信じられないという顔をし、そう叫んだ。
それからブツブツと、あり得ない、とか、初めてだ、とか呟いている。
あまりにも無視されているような状況に、ルーナも少しムッとする。
「あの、さっきからお一人で何ですか?」
「キミ。」
ずいっ、と突然距離が近くなる。
離れようと後ずさったが、肩を掴まれそれもできなくなってしまう。
「ちょ…、近いで…」
『ルーナカラ離れてくだサイっ!!』
突然ホルダーについていたティアのボールが音を立てて開き、蒼の炎が青年を襲う。
これには驚き、青年はルーナから離れる。
「こ、こら、シャンデラ!火傷しちゃったらどうするの?!」
『当たらないヨウ手加減はしまシタ。ご安心してくだサイ。』
「安心なんてできないよ!あの、怪我はありませんか?」
片膝をついている青年へと駆け寄り、ルーナも地面に両膝をつく。
ティアが不服そうに声を上げたけれど、怪我をしていたならちゃんと手当てをしなければいけない。
いくら手加減したとは言っていても、ティアの炎技の威力は尋常じゃないのだ。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう。
それにしても、キミは…。」
まじまじとルーナの顔を見る青年。
何と言うか、居心地が悪い。
さっきまで全くの無関心だったのに、この切り替えは一体何なのだろう。