きみとみる世界
□心傷。
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夜の闇に浮かび上がる華やかなネオンの光が目に染みる。
さすがは娯楽都市、もう夜の10時を回りそうになっているというのに、人の賑わいは中心から離れたゲート前にも聞こえてくる。
「ライモンシティ、着いた…。」
全身砂まみれでボロボロになった少女が、ふらつきながら同じくズタボロな青年に向き直った。
「ポケモン、センター…、早く行こ…。」
「…。」
力無く頷く青年。ふらつきながら、整備された石畳の上を歩いていく。
街灯に照らされた影は、今にも倒れてしまいそうだ。
何故この二人がこんなにもボロボロなのか、それは数時間前に遡る。
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「…砂漠。」
「うん、砂漠。でも見ての通り、ちゃんと整備されてるし作業員のおじさんもいるから、よっぽど酷い砂嵐にならない限り無事にライモンシティまでは辿り着けるよ。」
博物館にドラゴンのホネが返されたのを見届けた後、トウコ達と別れた二人は森を抜け、
自転車で橋を駆け抜け(ルーナは自転車を持っていなかったので二人乗りになった)ヒウンシティへと戻った。
砂漠を抜けライモンシティへ向かうためである。
さて、砂漠に足を踏み入れ、ポケモンを捕まえながら進むうち。
飛ぶ量が多くなっている砂にピカチュウは不安気に鳴き、ロルも危機感を示していく。
「レッド、ジバコイルがこのままじゃまずいかもって。早く舗装路に戻ろ。」
頷いたレッドと、締まりのない地面を走る。
しかし砂の勢いはみるみる増し、あっという間に視界を覆い尽くす砂嵐になってしまった。
それからは歩いてバトルしての繰り返し。バトルのほうは全く問題はないが、砂嵐と熱にジリジリと体力を奪われていく。
ヒウンを出たのは午後2時を過ぎた頃で、ライモン到着予定時間は、ゲット寄り道諸々含めて3時頃。
時間を見るとそんな時間はとっくに過ぎていて、しかもこの砂嵐。
一体ライモンに着くのはいつになるだろうか、いやもはや辿り着けるのかどうかが不安になった。
「皆、ごめんなさい。」
「ルーナは悪くない。」
「ぴいか。」
『ちゃんと道、見つける。姉さんは、ボクが守る。』
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ポケモンセンターの中はやはり人が多く、置いてあるソファーや椅子に腰掛け雑談しているトレーナー達がいた。
そして彼らの注目を浴びてしまうのは、まあ仕方ない。
ゲートを抜けた後落とせるだけ落としたものの、全身砂まみれの傷だらけな自分たちは、相当に目立つ。嫌な方面で。
「まあ、大変。」
ジョーイさんも目を丸くして、すぐに濡れタオル二枚と救急箱を持ってきてくれる。
ルーナはジョーイさんから、レッドはラッキーから治療を受けつつ、ようやく『助かった』と実感を得たのだった。
「ルーナ、相部屋になったけど、いい?」
道中道探しとバトルでくたくたになってしまったロルと、砂嵐で体力が限界に達していたピカチュウを預けて戻ってきたレッドの手には、鍵が一つ握られていた。
壁に寄りかかりながら少しうとうとしていたルーナは、目を開けて頷く。
「にゃ、いいよ〜。ありがとう。」
鍵に書かれた番号の部屋へと向かい、各々の鞄とポケモン達の入ったボールをベッド脇に置く。
ルーナは早々にベッドへダイブし、軟らかい枕に顔をぐりぐりと押し付け、ようやく一種の安らぎを得た。
その時レッドが何か言いたげにしていた事を、ルーナは知らない。
「レッド、先にお風呂入って。私は出るの遅いから、後で入る。」
顔を枕に埋めたまま、目だけをレッドに向けて言う。
レッドは少しの間の後に頷いて、備え付けの浴室へと入っていった。
「…眠い…。」
ふあ、と欠伸をして、もう一度枕に顔を押しつける。
浴室から僅かに聞こえる水音を聴きながら、ルーナはそっと意識を手放した。